蛇蝎のごとく

 3月10日。

 昨日の朝は急に温かくなった。
 しかし、前日から雨が降っていたので、川はドブ臭が漂い終わっているのではないかと思っていたが、その日降臨跡に入っていた李立より釣果写真が送られてくる。
 今や登戸釣り廃人の間ではスモールマウスより価値のある魚。
 朕は、自分にはどうにも出来ない悔しさを隠すため「自分、根っからのバサーなもんで」と、涙目になりながら興味の無い風を装った。
 更に同日、公孫戍は韓流手マンポイントで40アップを含む四匹のスモールマウスをキャッチしたとの報も入ってくる。
 娑婆に囚われ、身動きの取れなくなっていた朕は「オレにかまうな、上手い連中と仲良くやってくれ」と、修羅のように泣いた。

 迎えた当日。
 週末は何かと不自由が多く、近頃は意気も下がり気味だが、釣り廃人として行かぬわけにはゆかぬ、というわけで登戸入り。
 風弱く、上昇、兆しの無い日に加え、韓流手マンポイントは他国領、オペラ座下は河川工事の拡大に伴い進入不可能。
 堰が開放され減水の動きに入っている今、利点は無いが降臨跡に入るしゃない。

 降臨跡には何人かの釣り人とナマズさん。
 伝説三輪氏が捕食を行うに十分なベイトがいながら釣り座に困るというようなこともない。
 太い流れの巻き返す付近でナイスサイズのスモールマウスをキャッチしている釣り人がいたがそれきりだった。
 堰が開放されて減水の流れに入っていることと無関係ではないだろう。
 我が主君の夏侯章かこうしょうと腹心の公孫戍こうそんじゅ、そして貴公子に遠慮して韓流ポイントを諦めたという張良がやってくる。
 有力と目されるポイントが打てぬならどうにもなるまい。半ば自棄気味のキャスト。
 水位が回復すればここにも魚は回ってくるだろう。それでも来なかったら堰下エリアにマルタでもやりに行くか。
 むけただのかぶってるだの、シコっただのシコってないだのと盛り上がっているうちに、ナマズさんが我々を呼ばわった。
 どうやって捕まえたのかと尋ねたところ、「これに食ってきたよ」と、ナマズさんが見せたのはチューブワームのアンダーショットリグだった。
 まさかルアーでこんなのが釣れるなんて!と、釣った本人も含め、大いに驚いていた。
 
 夕刻に入り、今日の勝者ナマズさんが撤退。
 ナマズ狙いで来るかもしれないと言っていた侯嬴こうえいは体調不良のため、釣行を断念。
 朕は「何だ、来れねえのか。だらしがねえなあ」と、この界隈でもっともだらしがなかった人の言葉で気遣った。
 これを機に、朕は堰下にマルタを狙いに行くことにした。

 窟の中にまだ追放者は戻っていない。釣り廃人たちが居なくても何かとプレッシャーがきついのであろう。
 昨年の今頃はこの場を仕切り、我々にも馴れ馴れしく声を掛け、隆盛を誇っていた光景も遥か昔のことのように思える。
 韓流手マンにはまだ不動の人影が見えている。
 週末の日中から夕方にかけての時間帯は手マンを諦めるべきなのかもしれない。
 来季の冬が思いやられる。

 堰下に入って愕然。
 中州が前回来た時とまったく違う地形になっていた。
 今年のポイントはそことそこ、と予測して、最盛期を楽しみにしていたというのに、昨日の雨が全てを変えてしまった。
 とりあえず日没まで様子を見ておこうとしていたところ、先ほど川原で幼い娘と遊んでいた若い母親がやってくる。
 どういう経緯で酔っ払っているのかはわからないが、ひどく陽気な女だった。
 朕にあれこれと尋ねて来ては感心したり笑ったりしている。
 幼い娘たちの不安げに呼ぶ声にも笑って答える陽気さに、こちらも不安になる。
 結局娘たちの元へ帰って行ったが、去り際に娘たちがこちらに「バイバイ」と呼びかけてきたのがいけなかった。お疲れ様、と応じたまでは良いが、治まったかに思っていた昔のトラウマが完全に蘇ってしまい、釣りどころではない心境に陥ってしまった。
 あの母子の幸多からんことを祈るのみである。
 このような精神状態から逃れるには聖人の徳に触れるより他無い。
 朕は夏侯章の居る堰上に移動することにした。
 マルタの動きがどうであったかなど問題ではない。

 夜になり、ようやく空いた手マンポイント。
 公孫戍と夏侯章もちょうどやって来る。
 朕は降臨跡を離れてから見た様子と、堰下で起きた私的事件のことを公孫戍に話しているうちに夏侯章の姿が消えていた。
 トラウマの影響か、満を持して入ったはずの手マンポイントで朕はバックラッシュを頻発させ一足先に終了となる。
 公孫戍は「釣れるまで帰らん、お前も付き合え!」と、伝説式虚仮の一念を発揮。
 今日の濁り具合では蝦採りも成果を上げられなさそうなので、ケーポップに入った主君の御機嫌を伺いに行こうとしていたところ、夏侯章が魚をランディングしている最中だった。
 50には届かなかったが47、8というサイズ。
 このポイントで三匹目だという。そして釣れたのはすべてナイスサイズだったとのこと。
 いかに夏侯章が至徳の人とはいえ、ここは伝説の地。
 朕は「突き落としてやろうか」と、怒りの涙目で凄んでみせた。
 
 気力を失った朕、反応を得られなかった公孫戍、ナイスサイズばかりを釣ってご満悦の夏侯章、と、それぞれの明暗がはっきりとしたところで納竿とし、僕たちは今恋をしているコンビニへ。
 夏侯章の卮言は今日も絶好調である。
 しかし、今日の勝者はすっぽんをルアーで釣ったナマズさんであるということを忘れてはならない。
 この日、釣果を得られず、やられた感しか得られなかった朕と公孫戍は「おめえは一軍、オレらは二軍。そういう考えやめねえか?オレたちそもそもそういう付き合いだったか?」と、伝説三輪式で泣いての解散となった。

 ※マー語






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Author:dragon
天に替って道を行おうとする人。
玉帝の導きに従い、非凡なる境地を目指している。

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