不知知病

 2月16日。

 かつて登戸をそれぞれ上下で主宰していた修羅はぐれ者の消息は依然不明のまま、降臨二年は流れ行く。
 娑婆に身を置く時、思うは漆園に遊ぶことばかり。
 尊師の『青蓮華に捧げる歌』の詞が頭に浮かぶ。
 そんな日の夜、侯嬴こうえいより写真が送られてくる。
 バルナでの釣果だという。
 自分がやりたかった釣りで釣られてしまったことが悔しくてならない朕は「でもよお、侯嬴さんは新川では釣ったことないよな。大したことねえなあ…オォーイ!」と、伝説式で称えた。

 迎えた釣行日当日。
 新川は修羅の自信の源だった。
 その新川で鍛えたという圧倒的自身を打ち砕いた多摩川
 ここで釣るのは並々ならぬことで、釣り廃人でなければ釣れやしない。しかし、オレは金もあるし、女もいる勝ち組だから、わざわざ負け組の連中と同じ舞台に立つ必要はない。
 誰も勝負など仕掛けていないのに、自ら大人同士の心の戦いを演じ、勝手に敗れてしまったレジェンドⅡに思いを馳せつつ帰路を急いだ。
 ナマズさんは既に韓流手マンポイントに入っているとの報が来る。

 登戸入り。
 窟の扉は開放されており、追放者がどこかでこちらの様子を窺っていることを示していた。プレッシャーにはランカーバス以上に敏感でありながら、自前のカバーが無いために強いられる労苦もさぞ多いことだろう。
 韓流ポイントに入る前に相羽セットを持ち出し、ライブベートフィッシングにも対応できるようにする。
 手マンポイントのナマズさんに「おめえばっかポイント独り占めしてんじゃねえよ!」と、挨拶し、ここ最近の状況について話し合う。
 風向きは降臨跡に有利にも思えるが、重機の及ぼす影響を考えれば、こちらでも良いように思える。
 朕は表層を一流しし反応を得られなかったので、風が強すぎなかったこともあり、相羽リグを投入してみることにした。
 相羽リグを組もうとしていたところ電話が鳴る。施恩からだった。
 最近釣れてるかというので、釣れていると答え、これから相羽リグ使うから確実に釣れるだろうと言ったところ、蝦あるの!?行く!と異様な昂ぶりを見せていた。
 大人になっても相変わらず現金なやつだ。
 果たして魚は居るのか居ないのかを確かめるのに相羽リグほど優れたメソッドは無い。
 手マンポイントの小さな範囲内でも状況によって良いスポットは毎度違う。その中のひとつでストライクを得ることが出来た。
 施恩も到着し、三人のルアーマンが三人の餌釣り師と化した結果、朕が40アップ一匹を含む三匹のスモールマウスをキャッチ。
 施恩は蝦を持っていかれるのみだったが、バスが居るならルアーで釣れると言ってルアーフィッシングに戻った。
 バイトは出るが、フッキングを上手く決められず、残る蝦もわずか二匹というところまで来て、ナマズさんもようやくフッキングを決めることができた。
 細々と集めてきた蝦を全て消費し、再びルアーフィッシングへ。

 「おめえばっかポイント独り占めしてんじゃねえよ!
 突如、李立が現れる。
 ライトリグでスローに誘う我々の前で「男らし~釣り」と伝説三輪式を決め、アラバマリグをキャスト。
 早々にストライクを得ていたが、ばらしていた。
 ナイスサイズのようだったが、釣れなかった以上「アタったとかバレたとか、そんな話は聞きたくねーんだよ!」と、伝説式で叱責しなければならない。
 バスが欲しているのは何なのかがはっきりせぬまま時間が経過していく。ボトムにも、表層にも反応は出るがなかなかフッキングにまでは至らない。しかし、バイトの出るゾーンは決まっていて、その中で李立がクローワームでフッキングを決めた。
 ぼんやりながらも何か仄見えるものがある、という感覚を得るが、ここでナマズさんが撤退。
 ナマズさんが撤退してすぐに、朕もフッキングを決めることができた。
 更に施恩が続く。
 アラバマリグの「男らし~釣り」である。
 とはいえ、いずれも「ああ、そのサイズかあ」と言われかねないサイズ。 
 やがて反応が出なくなってきたことにより李立と施恩はケーポップポイントへ移動して行った。

 程なくして施恩が戻ってくる。
 しかし、これまでの施恩とは違っていた。
 わずか二、三十分の間に水も滴るいい男に変貌していたのである。この変貌ぶりにくらくらしてしまったのは他ならぬ施恩自身だった。
 「全身ずぶ濡れ…もう続けるのは無理っす。帰ってソッコー風呂入ります!」
 施恩、滑落により、ガチの敗退。
 李立が戻ってくる。
 ケーポップでは反応を得られなかったとのこと。
 小路に濡れ跡があったけど、というので、朕は施恩の身に起こった喜劇について語った。
 「あいつの勝ちですね」と李立。
 施恩、敗れて勝利を得る。
 既に水門工事は終わっており、風は南側から吹き続けていることにより、韓流ポイントを捨て、降臨跡の様子を見に行くことにする。

 一年と四十六日も主宰者不在の降臨跡。
 伝説人を拝んでみたいと望む者は後を絶たず、まったくの平日であろうと、ここにはいつもルアーマンの姿がある。
 強風の中、流れの巻く浅場、浅場へと向かう深場…投げ良いベイトを選択し、釣りの醍醐味を楽しんでいたが“だが、反応は無い”の千夜釣行状態が続く。
 ここが釣れない理由についてあれこれと論じ合い、ならばこれ以上粘ったところで徒に損耗するだけであるという結論に至る。
 「おめえ、何でそんなことがわかるんだよお!
 朕と李立が並んでよく釣りをしていた頃、そう言って伝説三輪氏は我々に食って掛かってきた。今にして思えば、三輪氏は会話に加わっていたように見えて、実は話されている内容を理解できていなかったのだろう。
 偉大なる教えの中に、知らざるを知るというは病なり、とある。
 「おめえがいいって言うから来てみたけどよお、釣れねえじゃねえか!」「オレが考え無しにやってると思うか?
 お約束の伝説式の罵り合いをして解散とする。

 解散後、窟前に戻ってみれば追放者が居た。
 いつもは20時前後にここに戻る朕だが、今日は18時台。
 まだ大丈夫、と羽を伸ばしていたところに突然来られ、さぞ驚いたことであろう。
 それでもプレッシャーを避ける術は心得ているようで、朕が今日の内容を仲間に報告のメールを打とうとして顔を下に向けている間にそそくさと窟を出て行くのが見えた。どこに隠れるのか、と顔を上げてみれば、既に行方がわからなくなっていた。
 伝説三輪氏同様ベイトを漁るのが好きだった追放者も本当にスプーキーになってしまった。
 昨年の今頃は、夜更けにオペラ座の仲間と焚き火を囲み悦に入っていた光景がよく見られていたものだが、その繁栄も今は昔。
 盛者必衰とはいえ、ここまで早く衰えるものは世に稀である。
 




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tag : 多摩川 ルアーフィッシング

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Author:dragon
天に替って道を行おうとする人。
玉帝の導きに従い、非凡なる境地を目指している。

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