終焉のオペラ座?

 2月4日。

 漆園の誓いはまだ果たせていない。
 日限を切っているわけではないが、我々はもう若くはない。
 朕など特に肉体の衰えが顕著である。廓遊びはともかく、チャレンジメニューに胃袋が耐えられるのか。
 誓いを果たせぬまま生涯を閉じるのか、果たせる頃には老衰の域に入っているかもしれない。
 我が主君には、またしても誓いの実行は延期となったことを伝えなければならないのは心苦しいことではあるが、たとえ都合の悪いことであってもありのままを伝えるのが良臣というものだろう。

 今日は南からの風が吹く。
 晴天で寒さに厳しさを感じない。
 こんな日なら聖衣GETTの装甲を強化するまでもない。
 GETTの下にカベラスを着込んだだけの装備で家を出た。

 開放された窟の前に到着し、川辺を一望するが、これほど易しい天候であるにもかかわらず、新川の捕食者は見えず。追放者も見えなかったが、窟を窺えるどこかで身を潜めているのだろう。
 かつてこの界隈を賑わした名物たちの往時を知るだけに、この現状はとても信じられないものがある。
 ひとまず、かつての名物たちのことは捨て置き、ユークリッド幾何学を用いて降臨跡に入ってみれば、既に公孫戍こうそんじゅ夏侯章かこうしょう 侯嬴こうえいといった釣り廃人たちが到着していたので、朕は「おめえばっかポイント独り占めしてんじゃねえよ!」と、伝説式で一喝。
 南からの風が水面を波立たせていたので、朕はジャークベートやリップレスクランクを引いてみたが反応は得られない。ボトムを引いていた公孫戍、夏侯章も芳しくない様子。 もう一段温かくならなければ降臨跡は厳しいのかもしれない。
 しばし釣りの手を休め、修羅はぐれ者が席巻した時代を懐かしんだり、スモールマウス、ナマズ、そして間も無くやって来るマルタ、マルタの遡上に紛れてやって来るシーバス、この時は肉食モードを露わにしてルアーに積極的にアタックしてくるコイやニゴイ、と近い将来に味わえるだろう喜びについて論じ合う。
 「おしゃべりしてないで釣りしなよ!
 アナザー氏が健在だったなら、金切り声で怒られていただろう。

 夕刻が近付き、突如という感じで風向きが変わる。
 冷たい北風が降臨跡に吹きつけるようになった。
 天がキングオブヒルになれなかった伝説人たちの無念を悲しんでいるのか。
 韓流ポイントに移動したいところではあったが、手マンポイントには不動の人影が見えている。
 風はいよいよ寒さを増し、陽が翳ってきたのを機に侯嬴は撤退。
 我々は「何だ、もう諦めるのか。おめえには根性が無え」と、礼儀正しく送り出した。
 手マンポイントにはまだまとまった数の人影がみえていたことと、朝から飲料しか口にしていない朕がから空腹だったことにより、いつもより早く僕たちは今恋をしているコンビニで時間を潰すことにする。
 或いは、こちらも予想外の時間帯に行けば伝説式疾駆を見られるのではないかという期待もあった。

 恋するコンビニへ向かう道中、水門工事の現場を見てそれぞれの予測を話し合っていると、顔の半分以上を布で覆った追放者が速足で通り過ぎて行った。
 かつてはこちらを発見するや、わざわざ寄ってきて聞きたくもないどうでもいい景気の良い話を吹きに来ていたものだが、猫肉骨粉問題のもつれから大人同士の心の戦いに敗れ、心境の変化があったのだろう。今ではベイトを避けるような行動を見せている。
 歩を進めていると、中途半端なヘルメットにサングラス、短パンモモヒキといういでたちのチャリダーがこちらに近付いてきた。
 こんな恥ずかしい扮装をしているような輩とは関わり合いになりたくないものだ、と避けようとした朕だったが、このチャリダーの正体は何と童威だった。
 「童威よ、お前もか…」

 かくして僕たちは今恋をしているコンビニへ。
 朕はここで存分に腹ごしらえをし、韓流ポイントの夜に備えた。
 腹が落ち着いてきたところで、朕は夏侯章に、またしても漆園の誓いは儚くなってしまったことを伝えた。
 これにより、夏侯章が不興を囲ってしまうことを恐れたが、近頃は筋肉をデカくするという大望に夢中のためか、さほど気にならないようだった。
 「章子しょうしの度量は今でも十分にデカいですよ」と、朕は我が主君を誉めそやした。
 体感的な寒さが収まり、17時になるまで僕たちは今恋をしているコンビニ前で過ごしていたが、この時間帯でも伝説式疾駆を見ることはできなかった。

 韓流ポイント。
 降臨跡から見えていた手マンポイントの人影はまだあったが、その数は減っていた。
 もしかしたら伝説三輪氏の捕食活動があったのかもしれない。
 ゾッド将軍と金正男、修羅はぐれ者の競演を死ぬ前に一度は観てみたいものだ。
 それにしてもここまで寒くなろうとは。せめてフルアーマーガンダムレベルの装甲は施しておくべきだった。
 チャリダー装束の童威は、朕よりも寒さが堪えていたようで、立っているのも辛いといった様子。
 そこで、朕は相羽セットを貸し、蝦採りをしてもらうことにした。蝦採りには体を温める効果があり、朕には面倒な作業を他人任せにできるという利点がある。

 朕は主に表層を引き、マニックに一度バイトが出るだけだったが、ボトムを引いていた公孫戍はバイトをしっかり捉えキャッチに成功。
 童威に「ああ、そのサイズかあ」と言って欲しい場面ではあったが、蝦採りから戻らないため、速やかにリリースとなった。
 やがて童威がライブベートフィッシング成立可能なだけの蝦や小魚を携えてやってくる。
 ケーポップポイントでは夏侯章が45のスモールマウスを釣っていたとのこと。
 証拠写真が無ければ伝説式で僻んでやるところだが、キャメラに収めていたという。
 凍てつく寒さに、肉体は悲鳴を上げていたが、明日も休日の朕は「釣れるまで帰らん。お前も付き合え」という気力が残っていた。
 最初にタップアウトしたのは薄着が祟った童威だった。
 普段なら、「おめえには根性が無え」と伝説式に罵ってやるところだが、今回はライブベート捕獲の功によって免じてやった。
 体は辛くとも、釣れる日なのだ、と粘る気満々の朕だったが、夏侯章が飽きてきたようで、撤退を宣言する。
 朕と公孫戍は、小賢しいひねくれ者という恥ずべき一面を具えていており、つまらぬ小人しょうじんの言には耳も貸さぬという傲慢さがある。しかし夏侯章は隣人でありながら、仰ぎ見ぬわけにはいかぬ絶対君主。天下に名を知られていなくとも、聖人の資質を持った大人たいじんである。
 我々は素直にその言に従い、次回の合流を楽しみにしての現地解散となった。

 駐輪所に戻ってみれば、この時間になっても窟の扉は開いていた。
 プレッシャーは皆無という状況である。
 もしや水門工事はいよいよ窟を取り壊すに至るのだろうか。
 だとするならば、日中見た追放者はここを去り行くところであり、あれが見納めだったのかもしれない。
 
 ※マー語


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Author:dragon
天に替って道を行おうとする人。
玉帝の導きに従い、非凡なる境地を目指している。

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