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フェンスノーモア

 2月3日。

 寒さの厳しさと、ハンドルのがたつきに起因する振動がシェイクするたびにグリップで増幅されどうにもならなくなるぐらいどうにもならない眠気のため、平日の釣行機会すべてを逃してしまっていた。 
 「おめえはそれで悔しくねえのか」というわけで、土曜日の多摩川へ。

 水門工事がオペラ座にまで及べば、追放者の棲息場所が危機に陥るだろう。あそこを追われてしまえば路頭に迷って…いや、初めから迷っていたというべきか。
 開放された窟から大回りして釣り廃人たちが来ているであろう降臨跡に向かう。
 工事現場には重機が入り、水門前は深く広く掘られている。
 見た目通り、大きな流れが常時流れ込むような状況が造られるのなら、迷惑事業に対する悪感情も少しは和らごうというものだ。

 降臨跡に入ってみれば、バギーズベイトと釣り廃人のセニョール、張横、侯嬴こうえいが既にポイント入りしており、遅れて公孫戍こうそんじゅ夏侯章かこうしょうがやって来る。
 これだけハイプレッシャーになってしまっては、いかに新川節を謳いたくとも橋は跨げまい。
 伝説三輪氏には悪いことをしてしまったなと思いながらも、釣り廃人たちにはここで戯れるのが無上の喜びであるため止めることはできない。

 何の気配も無いまま時間が過ぎてゆく。
 魚が留まるわかり易い条件を備えた韓流ポイントに入りたいところではあったが、多くの釣り人が見えていたので、せめて向こう側だけは修羅の捕食活動を妨げてはならないと思い、バギーズベイトが消えるまで移動は控えることにした。
 夕刻を迎える前に張横が撤退。
 「何だ、もう諦めるのか。おめえには根性が無え
 と、伝説式に罵って見送った。
 少しずつ光量が落ち始め、バスが入って来る、或いはカバーから出てくるであろう時間帯に入る。
 依然誰も反応を得られない。
 セニョールが撤退するという。
 「おめえはそれで悔しくねえのか
 と、朕はいつも釣れなくてガチで泣いていた人の物真似をして見送った。

 17時の鐘が鳴る。
 この時間でもまだ十分な明るさがある。
 春を感じさせる光景だ。
 実釣では春を先取りしたメソッドは通用しなかったが、春を思えば気分の良いものである。
 「オレはよお、釣れなくてもフィールド立ってルアーキャストするだけで満足なんだよ
 後輩の好釣に、石を投げて妨害するほどガチな性格で、そのヘボっぷりはⅡを遥かに凌駕していたレジェンドⅠの言葉が偲ばれる。
 場を包む空気は実に穏やかなもので、釣り廃人としての時を愉しむ一同であったが、ここで公孫戍がバイトを捉える。
 場の雰囲気は一転し、皆「おめえばっかポイント独り占めしてんじゃねえよ!」と、レジェンドⅡのように怒り、かつ泣いた。
 韓流ポイントのベイトが見えなくなる頃、侯嬴が撤退。
 「釣れるまで帰らん。お前も付き合え
 たとえ気が緩んでいても、伝説式の礼を欠かしてはならないのがこの地での作法だ。

 バギーズベイトの居なくなった韓流ポイント。
 捕食活動があったため、皆うんざりして逃げたのだろうか、それともそれぞれに帰るべき事情があって撤退して行ったのかまではわからない。
 願わくば、降臨があって、伝説とは釣り廃人たちのでっち上げた妄想ではないということを知らしめる出来事があって欲しかったものである。
 釣りだけを楽しむなら、伝説人なしでも楽しめる。しかし、人というものは貪欲なもので、ひとつ満たされればまたひとつ満たされたくなってしまうもの。
 朕は世俗的な喜びは特に求めていないが、漆園で得られる喜びに対してはあくまで貪欲なのだ。

 手マン、ケーポップとそれぞれに散り、粘り続ける。
 しかし、あの陰陽二気の働きに近いところに在る夏侯章でさえ寒さを口にする夜である。近付こうとしても近付けない未熟者の朕ではあるが、自分の弱点は熟知しており、寒さにはパーフェクトガンダム仕様で臨んでいたためにそれほど苦になっていなかった。
 夜は更け、しばらく誰も反応を得られずにいたが、突如夏侯章がファイトを始めていた。
 バスではなさそうだが大魚であるのは間違いない。
 水面に長い魚体のうねりが見える。
 ナマズか?
 と期待したのも束の間。バレてしまう。
 「アタったとかバレたとか、そんな話は聞きたくねーんだよ!
 朕と公孫戍は伝説アナザー式で、身分の上下も顧ず夏侯章を叱責した。
 「やたら重くて引っ張るだけで、首振らねえし、ジャンプもしねえし、コイだな」
 と、ハナクソをほじくりながらどうでもいいや感を出す夏侯章。
 臣下たる我々は、アユに絡んでいるときでないコイをルアーで釣るのはいかに難しいことか、現時点ではナマズやスモールマウスを釣るより価値がある魚種であると説き、主君の軽率な振る舞いを諌めた。
 夏侯章は「この先はあらゆるバイトをおろそかにせぬであろう」と言った。
 聖天子の道を歩む夏侯章の徳がいちだんと高まったことを見届けた朕は、安んじて蝦採りに励もうとしたが、見える蝦の数は多かったものの、相羽リグには適さないサイズのものばかりであったため、結局ルアーフィッシングに戻ることにした。
 しばらくすると、公孫戍が「今日は二種達成かも」と言ってファイトしているのが見えた。
 駆け寄ってみるとそれはナマズだった。
 60には届かなかったが、なかなかのナマズ。
 スモールマウスとナマズのキャッチは、通常の多摩川ゲームを攻略したことの証である。
 とはいえ、自分が釣れたわけではないので甚だ面白くない。
 そこで朕は「ナマズにワームは無いよ」と、伝説未満人の言葉で僻み、今日の勝者になり損ねた夏侯章は「オレはおめえと違ってガチじゃねえからよお」と言って泣いた。
 ナマズ、コイといった厳しいと思われていた魚種さえも反応する日なのだから、頑張ればまだチャンスはあるはずだ、と粘りに粘り、20時を過ぎてもキャストを続けていたが、やがて公孫戍と夏侯章は寒さに、朕は空腹に集中力を失い、僕たちは今恋をしているコンビニで体を休めることにする。

 21時を過ぎての恋するコンビニ。
 これまで伝説式疾駆を見てきた時間帯を大きく過ぎてしまっているが、プレッシャーの高い昨今、プライムタイムは従来のものからずれてしまった可能性もある。
 まだまだデカくしたいというアイアンマンの夏侯章の筋肉話などを拝聴しながら通りを注視していたが、寒さがプレッシャー要因となってしまったのか、期待していた現象は見られずの解散となった。

 駐輪所に戻ってみれば、窟の扉は閉じられていた。
 こちら側は閉じることが出来ても、反対側は吹き抜けの窟である。
 朕は、夏侯章でさえも寒いという夜を、ほぼ野天に近いところで凌ぐ追放者の鋼鉄のごとき耐寒能力に感心し、帰路に就くのだった。




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テーマ : プロレス
ジャンル : スポーツ

tag : 多摩川 ルアーフィッシング

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Author:dragon
天に替って道を行おうとする人。
玉帝の導きに従い、非凡なる境地を目指している。

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