捕食好適日の憂鬱

 1月6日。

 かの伝説人の降臨が無いまま土曜日が来た。
 穏やかな晴天の土曜日。
 いつもの釣り廃人のみならず、ベイトとなる釣り人も多く訪れよう。
 冬にあってこれほど人に優しい天候となれば、いよいよ伝説三輪氏がベイトを捕食する光景が見られるか。そうなったら元号も降臨から捕食に改めたい。
 次なる降臨が起こる前から元号を用意するのは不謹慎なるや否や、というところではあるが。
 たまにはこちらの期待通りの展開があってもいいのに、と思いながら多摩川に向かう。

 登戸入り。
 オペラ座前に二輪車は何台か停まっていたが、三輪車は無かった。
 窟に追放者の不在を確認し、降臨跡を見渡せばベイト釣り人の他に、公孫戍こうそんじゅ、李俊、セニョール、侯嬴こうえいといった釣り廃人たちが勢揃いしていた。
 「おめえばっかポイント独り占めしてんじゃねえよ!
 と、伝説式を決め、朕も釣りという低レベルな競争に参加する。
 今日はセニョールが一匹釣れたとのこと。
 明るい時間帯のルアー釣果を半ば捨てている朕はただシャッドダンサーを巻いて潜行深度の把握に努めていた。
 シャッドダンサーを巻いていたところ、セニョールとラパラルアーの話になり、多摩川では活躍の場面が限られるストップラップだが、ユーチューブでイワナが爆釣している動画を見たという話を聞き俄然興味が涌いた。
 あそこであの時よく釣れたから、今ここで釣れるというわけではないが、フィールド、対象魚を選ばないベートは興味をくすぐられる。
 やがて蔡沢も現れ、降臨跡は釣り廃人で満たされ、ベイトアングラーの数を上回ってしまった。
 これではもし伝説三輪氏が来ていたとしても捕食行動は起こせないだろう。見知らぬ釣り人は好物でも釣り廃人だらけでは恐れが生じる。
 一級のフィーディングスポットにスズキやナマズが居れば、バスは寄ってこないのと同じ道理だ。
 カモメの群れが現れる。
 昨日はカモメがマニックに食いついてきて危うくフッキングしかけた。
 公孫戍にその話をしたところ、多摩川のカモメはセレクティブで、おなじ水面引きでも反応の良いものとそうでないものがあるという。
 中には、多摩川のスモールマウスはセレクティブじゃないから面白くないと言う者も居るほどだから、セレクティブなカモメのほうが挑戦し甲斐のある対象なのかもしれない。
 ということでマニックを結ぼうとしたが、何故か手からこぼれ落ち、テトラポットの間に吸い込まれていった。
 マニックの沈下する動きはとても艶めかしく、いかにも釣れそうな素晴らしい動きだった。
 降臨跡では反応を得られていないことと、昨晩仕込んだ相羽リグのトレーラーは韓流ポイントに保管してあるので、朕は独り韓流ポイントに移動することにした。

 韓流ポイント。
 三輪氏のベイト、伝説ビリーバーの釣り人数名。
 少し間を置いて、下野さんや蔡沢といった釣り廃人も見えるようになり、その辺りから蝦で確実な釣果を望めそうなタイミングに入る。
 スプリットショットリグから相羽リグに組み替える。
 手頃なサイズの蝦が多数あればサーチにも相羽リグを使いたいところだが、五匹しか居ない。
 しかも一匹は脱皮中で使えそうもない。
 一匹目は根掛り、二匹目は持っていかれるだけ、と無駄にロストし、残りの二匹でキャッチ。
 ライブベートを失ってしまっては、今後釣果を得るのは困難だろう。
 蔡沢と下野さんは連日相羽リグの力を目撃している。
 蔡沢は大いに蝦に興味を示し、効率的な捕獲方法について論じ合い、色々な方策が湧いてくる。
 どれもこれも蝦を捕まえるということのみに於いては良い手であるかもしれないが、大仕掛けを組んでこの遊びの美点である身軽さを犠牲にする価値はあるのだろうか。
 すなわち、機心生ずれば純白備わらず、純白備わざれば神性定まらず、神性定まざるは道の載せざるところなり、というわけで、結局のところ今のように原始的な方法でやれるだけのことをやるのが無難であるというところに落ち着くのだった。

 相羽リグの続行は不可能になったので、朕は再びルアーを結んだ。
 ルアー釣りを始めたころザ・タックルボックスの店長がやって来る。
 相羽リグで反応を得られたリトリーブコースを説明し、その周辺にルアーを通していくが、ルアーにはまったく反応が無い。
 ルアーが違うのか、カラーが違うのか、レンジが違うのか。
 日没となる。
 光量が落ちてからは表層をハードベートで広範囲に探ることも試みた。
 公孫戍も韓流ポイントにやって来る。
 オペラ座下で二匹キャッチできたとのことだが、キャメラ機能が不調のため写真は撮れなかったという。
 もちろん、証拠がなければ「みんな公孫さんは上手い上手いっていうけどよお、あの人本当に上手えかあ?」と、伝説三輪氏のように僻んでおくべきだ。
 ヒットルアーはいずれも3インチファットセンコーだったというので、こちらも短くてボリュームのあるタイプのワームに替えてみることにする。
 ファットアルバートグラブのイモ、タイニーブラッシュホッグと使っていたが反応を得られないままだったので、結局一番信用しているスティッコーと心中することにする。
 去年の今頃までは、ニゴイしか釣れないニセモノセンコーと馬鹿にしていたのが、今ではボトム攻略の必携ルアーとなっている。

 今現在の話、ルアーフィッシング全体の話、世の中の諸々の話などしつつもガチという適度な緩みと緊張感の均衡を保ち、釣り人の状態は良好であったが、誰一人反応を得られないまま蔡沢が撤退。
 19時半の潮止まりを迎え、残った者たちも釣りという低レベルな競争からしばし卒業することにした。

 納竿後、神州之華で晩飯を食い、満足しての解散。解散時、明日の分のライブベートを捕獲しに行こうかと一瞬思ったが、すぐに萎えてしまった。
 この執念の薄さは天性のものか、削られていく中で身に備わったものか、単に老いが進行しただけのことなのか。
 どうせ答えは出やしないのさ、と駐輪場に戻ってみれば窟の耐寒扉は閉ざされていた。
 この絶対と恃んでいるカバーも、水門工事が進めばいずれ呑みこまれてしまうのだろう。




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tag : 多摩川 ルアーフィッシング

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Author:dragon
天に替って道を行おうとする人。
玉帝の導きに従い、非凡なる境地を目指している。

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