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夫れ、チョベリバなる乎

 12月10日。

 昨日は心身を損ないながら糧を得なければならない場に押し込められていたため、オレにかまうな、上手い連中と仲良くやってくれと伝説三輪氏のようにいじけていたが、上古の書に親しんでいるうちに、牢獄は己の心の中にあるのだと知り、いじけの心は少しずつ溶けていった。
 そんな折、公孫戍こうそんじゅより、本人はレギュラーサイズのスモールマウスを三匹、至人の夏侯章かこうしょうはスモールマウスとナマズを釣ったとの報が入ってくる。
 レジェンドⅡのような俄か仕込みの落ち着きなど容易く剥がれ「でもよお、おめえら新川では釣ったことないよな。大したことねえなあ…オォーイ!」とブチキレた。
 これは腹が減っていたために起きた発作ともいわれているが、いじけ、僻み、砕かれた自尊心との関連性は否定できない。

 かくして迎えたこの日。
 今日は昨日より温暖なのでいけるかもしれないと思い、伝説式保険も掛けず、フィネスワーミングに重きを置いたスピニングタックル1セットのみで出発。
 これだけ天候の良い日曜日なら、口先だけの根性でも十分にやっていける上、ベイトも数多く訪れるだろう。
 ベイトの中には伝説の実在を信じるビリーバーも紛れているかもしれない。
 望みは薄くとも、新川節が謳われる光景を思い描き、登戸へ向かう。

 窟内に追放者が蠢いていたが、窟より出でて己の充実した境遇自慢をしに来ることは無かった。ソープオペラが開催されているわけでもないのに引篭もっているということは、取り込めなかった釣り廃人たちが来ているに違いない。
 見れば、降臨跡にセニョールと張横。
 「おめえばっかポイント独り占めしてんじゃねえよ!
 「何だ、釣れてねえのか。だらしがねえなあ
 「アタったとかバレたとかそんな話は聞きたくねーんだよ!
 会話の節々に伝説式を織り込みながら、今日の感触、ここ最近の、今年の感触を話し合う。
 今日はこれから李俊も来るという。
 江三子のうち、公孫戍と夏侯章が来ることも確定している。
 見知らぬ釣り人も今日はいつもの休日より多い。
 今こそ、かの修羅が個性的な三輪車にうち跨って降臨し、新川節、野池武勇伝を大いに大衆に語り、ネタを披露すべき時ではなかろうか。
 しかし、現実にここに居るのは皆、負け組として釣りという低レベルな競争に興じる釣り廃人ばかりである。

 いつの間にかオペラ座下に夏侯章が現れていた。
 道を把えている夏侯章に付き従い学びたい朕は、今探っていたポイントを捨て、オペラ座下に向かった。
 オペラ座下には公孫戍も居た。
 ちょうど空いたポイントに向かおうとしているところだったので、朕は小走りで先入りしようとした。これこそが降臨の時代に於ける小走りの礼というものだ。
 しかし、公孫戍も礼に関してはうるさい男である。
 本当の小走りとはこのようにあからさまな走りではない。あくまで無関心、自然なムーブを装いながら、執着心が露骨に見えるような速度でなければならないという。
 伝説諸氏が現れなくとも、登戸の釣りをいつまでも面白いものであらしめるために、礼を匡し、伝説の遺産を守る…史官の務めである。
 夏侯章は昨日、大ナマズを釣った余裕からか、いつもより長くハナクソをほじっていた。キャストを繰り返し、細かくポイント移動しながら「何もわからぬ、何もわからぬ」と呟いている。
 朕は夏侯章が至人だと聞いているので「どうか道について教えていただけませんか」と尋ねてみたところ、「それはだな」と言ったきり、何を言うべきか忘れてしまったかのようだった。そして再びハナクソをほじりだす。
 達しているとはこういうことか。
 朕は敬意を表しつつ、続けた。
 「章子しょうしわたくしめは先日夢を見ました」
 ハナクソをほじったまま夏侯章はいう。
 「ほう、どんな夢だね」
 「はい、その夢の中で臣は蝶になっていました。蝶となって空を舞い、上下左右も思いのまま。これこそが自分の生まれつきと思うほどでした」
 夏侯章のハナクソをほじる手が止まった。
 更に朕は続けた。
 「そして目が覚めた時こう思ったのです。果たして今ここに居る自分は本当の自分ではなく、蝶である自分が見ている夢なのではないのかと」
 夏侯章は笑みを浮かべ「吉原発リベラ行きが楽しみである」といい、再びハナクソをほじり始めた。
 その様は虚無の大地に遊ぶ痴れ者のようであった。
 聖人は一見すると大変な愚か者にも見えると習ったが、なるほどこれがそのことなのかもしれない。
 聖人の徳に触れた後、公孫戍より、昨日目撃した肉骨粉問題の現場の話を聞く。
 主演の全作が半作どもを従え、場末姫を囲い、いかに追放者が居ようとも押し除けるほどの勢いだったという。伝説の降臨は無くとも、名物を楽しむことは出来ていたようだ。
 背後にただならぬ気配を感じ指差した方向には李俊。
 「どうですか?」
 と、様子を尋ねてきたので、我々は「今さっき来たばっかりです」と答えた。
 バスの顔をよく見ている李俊だが、今年最初に現れた登戸名物を見ることは出来なかった。そういう意味では、技量はあっても天運に恵まれなかった人、と言わなければならないだろう。

 陽が沈む頃、夏侯章とその家来たちは韓流ポイントへ移動。
 休日の登戸エリアを楽しんではいたものの、これまで誰一人として魚を釣っていないし、手応え、兆候といったものは感じていない。
 このままでは我々は修羅であるなどと臆面もなく言い放った僭称釣りウマのプライドはズタズタになってしまうことだろう。
 そこで、めいめいに「おめえがいいっていうから来てみたけどよお、釣れねえじゃねえか!」と罵ってみたり、「ミノー投げてるだけで楽しい」と偽りの充実感を表してみたりしていた。
 
 20時が近い。
 いよいよ泣いた心を蔽い隠すために「釣れなくても関係ありましぇ~ん」と謳うべきか。
 伝説人の見え見えの負け惜しみに逃げられるだけのクソ度胸も無い我々は、状況の移り変わりを捉えられない技量の無さを嘆くしか出来なかった。
 そんな諦めムードが漂う中、ヤミーフィッシュを引いていた公孫戍のラインが走った。
 ペケニシモというには大きく、グランデというには小さいという大きさ。
 しかし、一向に捉えられない状況から一歩先へ踏み込むことが出来たことは大きい。
 更に公孫戍は一匹追加する。
 どうやら魚が居なかったのではなく、やり方に問題があったようだ。

 既に終了予定時刻を超過している。
 明日には明日の日程があるのに「釣れるまで帰らん。お前も付き合え」と、理不尽を押し付けてくる修羅も居ない。
 撤収の時だ。
 ノーフィッシュに終わった朕は「おめえは一軍、オレらは二軍。そういう考えやめねえか。オレたちそもそもそういう付き合いだったか?」と泣いて、夏侯章は「でもよお、公孫さんは新川では釣ったことないよな。大したことねえなあ…オォーイ!」と吠えて、釣果を得た公孫戍を讃えた。

 休日のアフターフィッシングのお約束、僕たちは今恋をしているコンビニへ。
 魚を得られずとも、伝説式疾駆を見られればすべての負は消去される。
 今日もまた夏侯章のてきとー節が炸裂。
 これこそが聖人の、日ごと口を衝いて出てくる卮言しげんというものであろうか。
 聴こうにも聴こえず、掴もうとしても触れ得ず、ぼんやりとして把えようのない混沌の世界である。
 朕は改めて夏侯章に問うた。
 「章子、あなたはいかにして道を体得したのでしょう。どうか臣にもその方法を教えていただけないでしょうか」
 夏侯章はつくね棒を無心に食し、ただ当たりか外れかだけを気にしていた。
 朕はその挙措にただおそれいるばかりで、せっかちにも今すぐを求める己を愧じた。
 破壊王を滅ぼしたのは肉体の病か、否、未亡人の色香ではないか。
 衆に秀でたもの、がむしゃらなやる気は取るに足らないものに惑わされ易く、運が悪ければその身を滅ぼすことになる。
 禍の元さえ棄ててしまえば何のこともないはずだが、有れば有るでなかなか手放せないものだ。
 聖人と破壊王の話に興じ、今日のあらゆる負を清算してくれる伝説式疾駆を待ち続ける一同だったが、遂に帰宅すべき時間が来てしまい、欲求不満気味の解散となってしまったのだった。




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テーマ : プロレス
ジャンル : スポーツ

tag : ルアーフィッシング 多摩川

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Author:dragon
天に替って道を行おうとする人。
玉帝の導きに従い、非凡なる境地を目指している。

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