幎冒所望

 8月6日。

 先日はハンドルのがたつきに起因する振動がシェイクするたびにグリップで増幅されどうにもならなくなる的な疲労を押しのけて無理矢理五本松へ行き、夕方から夜にかけて流してみたが、何もわからぬままノーフィッシュに終わってしまった。
 伝説界の高祖のように「オレはよお、釣れなくてもフィールド立ってルアーキャストできるだけで満足なんだよ」というのも、無きにしも非ずだが、やはり悔いは残る。
 そんな日の夜に、結婚以来なりを潜めていた小田原の楽和より、突如、芦ノ湖からの便りが届く。
 最近ショアジギングを再開したのをきっかけに、釣りそのものを再開したとか。
 アルゼンチンサーフではキングウォッチも営業再開したとのことで、この先の合流が楽しみになった。
 現在は農業にも携わるようになり、何かと充実した日々を送っているようである。
 そういえば、伝説三輪氏の※一ジンにはわからない新しい愛の形はどうなったのだろうか、と気になってみた。

 かくして迎えた当日。
 もうひとつの伝説史官、公孫戍こうそんじゅより、昨日の降臨跡、及び侯嬴こうえい島の様子が伝えられる。
 釣果を得られていたのは張横だけだったが、然るべき場所で魚の反応は得られていたというので、今日も期待できそうだ。

 朕はこの日、フィッシュイーグルのスイムベートロッドと、スーパースプーク(ラトル音消去加工)、BBZラットJr(ラトル音消去加工)、BBZシャッドF、スラマー・バカ犬、ジャンピンミノー(ラトル音マイルド化加工)、Bフォロワーのみを用意して臨んだ。
 ナマズを目視で見つけるのが難しい昨今、こちらから魚に誘いをかけて釣るのではなく、おおまかにエリアを決めたらあとは魚の方からこちらに来てもらおうと考えてのこと。
 立ち浮きのジャンピンミノーを用意したのは、日中のコイ科やブラックを意識してのこと。
 とはいえ、目論見通りに事が成るとは限らないので「今日はビッグベイトが釣れるかの実験」と、伝説式保険を掛けることは忘れなかった。

 日曜日の多摩川、降臨跡。
 休日ならではの賑やかな川辺の風景が見える。
 それでも何かが足りない。
 「釣れなくても関係ありましぇ~ん」と、おどけて見せながら、実はあまりの釣れなさにいじけてしまった人や、「ミノー投げてるだけで楽しい」と言いながら、実は自分だけ釣れなくて面白くない思いをしていた人たちの姿が無いことや、再開したはずのソープオペラが開かれていなかったためであろう。
 これらのことはルアーフィッシングそのものとは無関係であるとはいえ、多摩川の情景を構成する重要なピースである。
 一抹の寂しさを感じるが、今日も釣りに集中する※二しゃないようだ。

 水道橋下には師匠と張横。
 張横は師匠から小物釣りの手ほどきを受けていて、稚ゴイとフナを調子よく釣っていたという。
 費やしてきた労力の割にはほとんど釣れていない朕にしてみれば“調子よく”というのが癪でならず、妬ましさを覚えたが伝説諸氏のようにキレるわけにもいかない。ここは大人の対応をすべきであろう。
 そこで朕は半開きの涙目で「自分、根っからのバサーなもんで」と言って無関心を装った。

 侯嬴の島に公孫戍と夏侯章かこうしょうが見える。
 朕は彼らに到着を報せるべく、アナザー式キャストを繰り返しながら釣り上った。
 朕がポイントに到着したところ、公孫戍が言う。
 「お前のキャスト、カッコ悪いから、来たのはすぐわかったよ」
 朕は「あんな向かい風の中、まともにキャストなんかできるわけねえだろ!」と、キレてやった。
 公孫戍は朕が来る前に既に一匹釣っており少し余裕があった。
 ベートの群れが流れの道筋を通るタイミングで釣れたとのこと。
 クローワームのアンダーショットリグでの釣果だというが、10センチ以上のアユの群れがみえることと、南風が水面を波立たせていたので、十分騙しは利くと思い、ジャンピンミノーを引く朕だったが、こちらは一切の反応も得られず。
 朕は、周辺の様子を探りに行ったり、公孫戍が伝説式保険として持ってきたメドマウスを吟味しているうちに、公孫戍が再びアンダーショットリグでバイトを捉えていた。
 サイズは20センチ台だったが、よく走る勢いのある個体だった。

 ブラソス兄弟が、実はダッドリーズだった、いやマシン軍団だという話や、夏侯章の脛の傷が勇猛にも未踏の藪に挑んだ結果ではなく、横着しようとしてしくじった末のものだったりと、話題は豊富だった。
 魚が釣れない最大の原因は“本を捨て末を問う”というところに陥るからであり、まずは本を正すべきである、といった真面目な釣りの話もしていた。

 夕刻に入り、ナマズが入って来る条件は揃っているかに見えた。
 明るい日中のプレッシャーから解放されたブラックもこれからベイトを漁りに来るかもしれない。
 バスかナマズ、どちらかが釣れるはず、と各々集中力が高まる。
 朕はナマズのみを意識して打ち続けたが、魚食ゴイの追いを見るのみ。しかも、入っている魚はこの一匹だけではないかという疑いもあった。

 公孫戍や夏侯章も反応を得られていないという。
 ここはいずれかのフィッシュイーターが来るだけの条件が出来ているのだから、と粘ってみたが、結局反応も気配も無いままだった。
 近辺で最も可能性を感じられる、と選んだポイント。
 “実験”と言いながら、効果を見込んだ上で用意した狡猾なる伝説式保険もむなしく、己の力量不足を思い知らされる。しかし、それを認めては新川で鍛えた僭称釣りウマのプライドは傷付いてしまう。
 そこで、まったく釣れなかった朕と夏侯章は「おめえがいいって言うから来てみたけどよお…釣れねえじゃねえか!」と、互いにこのポイントを勝負場所に選んだ責任をなすりつけあい、自分だけはヘボくないという気になっての納竿とした。

 休日のアフターフィッシングの楽しみは、僕たちは今恋をしているコンビニでの“伝説を思う夕べ”のひと時である。
 移動中、オペラ座の追放者に会う。ソープオペラ休演の理由はこれだったのか…猫肉骨粉問題は依然くすぶっているようだ。
 幻といわれた伝説の人が二週に渡って疾駆したという事実に衝き動かされてか、先ほどまで労役に駆り出されていた李立もやって来る。
 ドレスコードのあるらしい成城のパン屋、メール送受信に関するネチケットについて…並べて語られることの多い多摩川レジェンドだが、その歴史の長さでは三輪氏より、アナザー氏に分があるようだ。
 と、疾駆する伝説が現れるのを待つ一同だったが、見たい見たいという気持ちが強すぎる上、生レジェンド未見の李立の殺気が突出していたのだろう。
 遂に三度目の疾駆は起こらぬままお開きとなった。
 コンビニの店員に、背が高くて可愛らしい外見の女が居ると知れば、或いは…というところであろう。

 魚も釣れず、伝説も見られず、すっかり※二られポンキッキな気分で公孫戍の釣果写真をアップしようとしたところ、キャメラのデータは空だった。
 シャッターを押したはずだったが、押したつもりになっていただけだったのか…。
 朕は大いに恥じ入り、赤くなったり青くなったりと悶えていた。
 これでは次回、公孫戍に会わせる顔が無い。

 ※一 『北の国から』より
 ※二 マー語
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ジャンル : 恋愛

tag : 多摩川 ルアーフィッシング

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Author:dragon
天に替って道を行おうとする人。
玉帝の導きに従い、非凡なる境地を目指している。

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