アナザードリーミン

 7月22日。

 土曜日。
 伝説降臨の期待高まる日。
 登戸名物の三輪車は見られずとも、もうひとつの伝説はまた見ることができるかもしれない。
 釣果を求める以外の楽しみがあるのが、世間が休日の日の良いところである。
 天然の条件は良好であっても、舞台は多摩川。1+1=2となるような間違いの無いポイントを見つけられていない以上、常にノーフィッシュの危険がつきまとう。よって、ボーズを食らっても自分のまずさ覆い隠し、己の貴さを保てた気になれ、ガラスのプライドを傷付かせずに済ますための伝説式保険は用意しておくべきだ。
 そこで、昨日は面倒臭がってやらなかったバスプロショップスの5インチシャッドテールワームを1/8オンスシンカー付きのフックにセットし「今日はバスプロショップスのスキーミンシャッドが釣れるかの実験」と、これから合流予定の公孫戍こうそんじゅに宣言してから家を出た。

 日中は堰下狛江側で魚食ゴイでも釣って、とりあえずのボーズ逃れをしておこう、とポイントへ向かう。
 堰直下ではアユの群れるブロックの陰で待ち構える二匹のニゴイと赤味がかった巨ゴイが見える。このタイプの魚は適切なベイトを通せば容易に口を使う個体だが、アプローチ不可能な禁漁区の魚。
 釣れるのはわかっていながらも見過す他ない。
 ポイント到着。
 岸に寄るアユは少なくなっていたが、先日のにわかの大雨の影響が消え去った証であるといえる。
 ニゴイは見えず、うろつくコイは魚食色をしていたが、ルアーを少し追っては背を向け、一度背を向けた固体は二度とルアーを追うことが無かった。
 スモールマウスのボイルも見えない。
 ここは今、外れの場所のようだ。
 公孫戍と夏侯章かこうしょうが、侯嬴こうえいのポイントに入ったとの連絡を受け、朕もそちらに向かうことにする。

 降臨跡に名物の三輪車は見えなかったが、オペラ座ではバワリープリンセスに半作、全作が群がり、アイアンメーデンが睨みを利かせ、復活のソープオペラが繰り広げられていた。
 オペラ座は追放者を生むことによって、再びの栄華を迎えているようである。
 公孫戍と夏侯章が見える。
 こちらに気付いているかどうか怪しいので、朕はアナザー式キャスティングを数回行ってからポイントに向かった。

 「公孫くん、夏侯くん、久しぶり~」と、朕はわざとらしく言った。
 それと察した公孫戍は「お前のキャストかっこ悪いから、ここからでも居るのわかったよ」と言う。
 そこで朕は「あんな向かい風の中、まともにキャストなんか出来るわけないだろ!」とキレてみせた。
 寡黙の君子、夏侯章もこの寸劇には声を出して笑っていた。

 実釣の方はというと、流れと風向き、ベイト、シャローフラットと揃っており、あとはフィッシュイーターが来るのか、適切なベイトは何か、というところまで来ていた。
 ここで朕は初めて実験ネタを投入。
 パッケージに同封されていたノーマルのフックは使い物にならなかったので、カルティバのフックにセットしてみたものの、これでもワームが回転。ヘッド重量は重くなってしまうがトリプルフック付き1/2オンスジグヘッドにセットしたところワームとヘッドが別々の方向に飛んでいき、早々に伝説式保険を失ってしまった。
 公孫戍もまた、新川で鍛えたプライドを傷付けないための実験ネタをいくつか持って来ていたが、こちらも不発に終わる。
 しかし、我々は伝説諸氏と違って一通りの心得はある。ここは粘る価値のある場所だということで諦めずにキャストを続けた。
 ここで冴えていたのは夏侯章だった。
 ビッグバドでバイトを引き出し、本当に釣れるのかと疑問視されていたイマカツのダブルブレードジグヘッドに大事に使ったほうがいいワームをセットしたリグでナマズをキャッチ。
 夏侯章には「ナマズにワームは無いよ」と、かつて朕が叩かれた陰口で祝福した。
 結局釣れたのは一匹だけだったが、誌面を飾る写真が撮れたので納竿とし、全作とプリンセスのみになった舞台を背に僕たちは今恋をしているコンビニへ向かう。

 コンビニ前での朕は落ち着きが無かった。
 デリヘル嬢と思しき夭艶の人を見てしまったというのも無きにしも非ずだが、これは幾許かの銭を持ちさえすればどうとでもなる問題であり、己の力が及ぶかもしれない範囲である。
 落ち着きを失っていた最大の理由は、人の力ではどうにもならない、天のみがその動向を知る、疾駆するもうひとつの伝説が現れるのではないかという期待からである。
 二週連続の降臨があった以上、この期待は単なる夢想ではない。
 朕は仲間たちに、何故自分がこうも人や世間を嫌うようになっていったのかを語りつつも視線は常に歩道に向けていた。
 一方、宿河原、風来堂、バスバブル期の思い出を語る公孫戍も、見れば視線は歩道側にあった。
 こんなときでもマイペースを保ち、放屁なされる余裕を見せているのは夏侯章だけである。
 駄菓子菓子…。
 今日は生エーテルの効きが弱かったのか、こちらの殺気がエーテルの力を打ち消してしまったのか、遂に求めるものを見ることが出来なかった。
 釣果を得た夏侯章はともかく、釣果も得られず、伝説も見ることのできなかった朕と公孫戍はがっくりとうなだれての帰路となった。

 帰宅し、夏侯章の釣果写真をアップロードしていたところ、史進よりメール着信あり。
 「関西で鉄板バイブが釣れるかの実験」だったとのこと。
 琵琶湖、淡路島、合川ダムに続き、今回は紀ノ川だという。
 朕は、メディアでしか知らないフィールドでの釣りを楽しんでいるのが妬ましくてならず「紀ノ川は河口で鉄板バイブ引くのがパターン。つまらねえ釣りだ」と、伝説三輪式で返答してやった。




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Author:dragon
天に替って道を行おうとする人。
玉帝の導きに従い、非凡なる境地を目指している。

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