天下谷

 6月11日。

 過ごし易い陽気に恵まれた日曜日。
 気軽に釣りを楽しみたい人には特にありがたい気候である。ライトなアングラーがエントリーし易い休日、というわけで、修羅がベイトを漁るのに最適な日でもある。
 朕が今や降臨跡を捨て、新たなポイント探しに走っているということも知っているだろうから、登戸に行けばレジェンドⅡがここぞとばかりにベイトを捕食している様が見られるかもしれない。
 ぜひともその光景を見てみたい、というのはあるが、余計なプレッシャーを与えぬように、流れを追って釣り易い魚を求める方を選んだ。

 調布に向かい、昨年のニゴイポイント下流に入る。
 普段は何人かの釣り人が常に居るため避けている場所だが、今日は誰も居ない。
 フェイキードッグ、マニック、レンジバイブ、Bフォロワーといった自分的定番をローテーションしてみたが反応は得られず。
 このようなメソッドで釣るには彼方上流に見える瀬周りの方が良さそうだ。しかし、調布側からあの場所に入っていくのは不可能に思われる。
 エントリー可能な太い流れのある場所を、ということで五本松に移動。

 ポイントに着いたところ張横が居た。
 「おめえばっかポイント独り占めしてんじゃねえよ!」
 折り目正しく伝説式の挨拶をする。
 儒家ならずとも礼は重んじたいもの。そして、礼とはその様式よりも、根底にある心を理解することが大切なのだ。
 並んで張横と釣りをするのは珍しい。
 現在のバスフィッシング事情、ルアー業界、多摩川、東京湾シーバス、ニゴイの話題の他、かつて張横は伝説三輪氏の前でクランクベートで釣ったことがあるという話も出てくる。そんな経験をしていたのに今こうして無事にいるのは、当時は突き落としてやらなければならないほど追い詰められていなかったからであろう。
 喋りに興じながらもしっかりキャストは続けていたので、張横は度々見るという伝説アナザー氏が現れたとしてもキレられる恐れは無かった。
 限られたポイントに並び立つのが可能だったのは、メーンに狙う魚と用いるメソッドが異なっていたためだ。
 「アタったとかバレたとか、そういう話は聞きたくねーんだよ!」という展開の中、レンジバイブへのアタリは確かに多かった。
 どうせスレでしょ、とハナクソをほじくりながら余裕をくれている朕に対し、スレかバイトかなんてのは釣り上げてから確認すれば良いことだろうと張横が指摘する。
 ごもっともなのだが、残念ながらその辺の緩さは生まれつきのものであってどうにもできない。
 やがて遂に朕が明確なストライクを捉える。
 走るのではなく、のたうつような引きにナマズと確信するがラインブレイク。
 トライリーン12lbとPE30lbの組み合わせにそんなことは無いと思っていたが、強引に外した根掛りや、ライン強度恃みの強気のカバーコンタクトでラインが傷んでいたのだろう。
 張横はたとえ強いラインを使っていてもラインチェックは神経質なまでに行うとのこと。
 「ラインチェックアタリマエ~」
 アルシンドを真似たミラクルジムの映像を思い出す朕であった。
 その後、再びストライクを得たものの、今度は手前バラし。
 「バラしまくりっすねえ」と笑う張横。
 そう言われては、新川で鍛え、トップウォーターロッドにラバージグという変態タックルでバスを釣り、野池のフローターフィッシングではあまりにもポップXで釣るのでポップXを封印させられた経験を持つ僭称釣りウマのガラスのプライドは粉々である。
 そこで「オレだってちゃんとやってるよ!」と泣きキレてしまうのである。
 「ちゃんとやってるんなら釣ってますよね~」と、張横は伝説式に対する回答を出す。
 結局ここで釣ることはできなかったが、伝説の風はここでも吹き荒れるのだった。

 張横が帰宅するのを機に、朕も移動することにした。
 今日はまだ君子への挨拶が済んでいないためである。
 混沌氏の術を修める夏侯章かこうしょうに謁見するには、公孫戍こうそんじゅに取り次いでもらうのが手っ取り早いのだが、朕も無名のあらきに還ることを望む者なので、みだりにテクノロジー頼みの連絡手法には依存せず、己の意気と足で求めることにした。
 そろそろ来ている頃であろう、と韓流ポイントに向かってみる。

 韓流ポイントに入ったところ、下野さんを発見。
 互いに距離を隔てていたので揖の礼で挨拶したのち、釣り糸を垂らしながら君子が現れるのを待った。
 しかし、まったく反応を得られず、君子も従者も現れなかったので、再び流れを追い、堰下エリアに移動することにした。

 堰下エリアに下りてみれば、おめえばっかポイント独り占めしてんじゃねえよ状態。
 釣りをする上では好ましい状態ではあったが、はぐれ者が現れる気配が無いのはちょっと残念だった。
 また、調布や五本松に比べ、見えるコイ、アユ共に少ないという印象で、とりあえず瀬の落ち込み周辺を打ってみたがバイトどころか魚がどこかしらに当るという感触すらも無かったのでこのポイントを諦める。

 再び韓流ポイント。
 植野行雄がやってきて、次いで夏侯章が現れる。
 風向きの関係上、流れ以外に目印とするべきものを見出せず、そうなると徘徊してくる個体との偶発的事故の発生に賭ける釣り方しかやりようが無い。
 ひたすらCD7を巻き続ける朕と、デブセンで発射し続ける夏侯章。
 そのうちあまりの気配のなさに共に倦んできて、公孫戍の様子を見に行くことにする。
 公孫戍は流れの当るカバーで粘っている。
 朕は巻くのに飽きていたので、トップウォータープラグを投げ始めた。トップウォーターをやっていればとりあえずゲームをしているという気になれるからだ、というだけではない。
 これだけ光量が落ちてくれば、水中を巻いたり、ボトムを取ったりしているより、魚を寄せることが出来るだろう、という訳だが、ストライクを得ていたのはボトム寄りを攻める公孫戍の方だった。
 ぴったり40センチといった感じのナイスサイズ。
 今は降臨の年。
 功に対する賛辞は時代に即したものがよろしい。
 そこで朕は「韓流ポイントのバスはトルキーストレートでカバーを引いてくるのがパターン。つまらねえ釣りだ」と、伝説氏三輪式で僻んでやった。
 ところが公孫戍は寂しげな表情で首を振る。
 「今日はトルキーストレートじゃないんだな。センコーなんだよ…」
 何という日であろうか。
 魚が釣れなかっただけではなく、伝説式もしくじってしまうとは…。

 この日、混沌廟に詣ることはできなかったが、伝説アナザー氏ゆかりのコンビニエンスストアでささやかな“伝説たちを思う会”が開かれた。
 そんな一時に、匹夫はただコーヒーを飲むだけであったが、君子はソフトクリームを食しておられた。
 聖人は為さずして、しかしすべてを為しているという。
 今、不言の教化というものに触れた気がした朕は心が満たされ、今日のしくじりへの悔いを捨て去ることができたのだった。


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テーマ : プロレス
ジャンル : スポーツ

tag : 多摩川 ルアーフィッシング

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Author:dragon
天に替って道を行おうとする人。
玉帝の導きに従い、非凡なる境地を目指している。

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