企者不立

 4月29日。

 出発前に、何故か鶴見川に行っていたという童威から自慢メールが届いていた。
 朕が今年に入って一匹も釣っていないナマズだった。
 朕は、ナマズの棲息域を見定められないために釣れていないというのが真実だが、己の至らなさは頑なに認めない伝説三輪式を用いて「自分、根っからのバサーなもんで」と返して興味の無いふりをした。

 今日は多くの人が休暇を楽しむために多摩川を訪れるだろう。
 当然釣り人も多く来るのではないか。
 レジェンドⅡがその威を示すには絶好の機会となろう。
 鍍金が剥がれてしまったとはいえ、それはごく近い人々だけが知ることであって、新参者を当っていけば再びかつてのように主宰者としての威を振るう愉悦に浸ることができようというものだ。
 朕は登戸名物が君臨したかつての光景が見られることを期待して多摩川に向かった。

 登戸入りして拍子抜け。
 人の数は多かったが、釣り人の数は平日よりやや多いといった程度だった。
 伝説の三輪車、三輪氏ともに見えず。
 この日合流予定の江三子、童威の姿も見えず。
 また、特に魚の動きが見えることもなかったので、昨日ボイルが確認された上流の瀬に向かった。

 対岸には張横。
 三月から今に至るまでボーズ知らずで来ているとのこと。
 ここは「突き落としてやろうか」と、泣いて凄むのが礼儀ではあるが、こうも互いに距離を隔てていては伝説三輪氏のような切実な味わいを出すことが出来ない。
 ここでは瀬に入っているアユの群れを見たり、ボイルを一度見ることはあったが、ニゴイらしき魚をバラしてしまうところを張横に見られてしまうのみ。
 ネストが集中する一帯があるとのことだが、今更ネスト打ちしての結果など、自慢どころか恥ずかしいだけである。新鮮な個体を供給してくれる再生産の機会を、バスフィッシング愛好者が目先の釣果のために進んで妨害する行為なのだから。
 未だベッドの魚を狙う釣り人の後を絶たない光景を見て暗澹たる気持ちになって移動。

 降臨跡に釣り人の数は相変わらず少なく、見ず知らずの釣人に、自らの華麗なキャリアを吹聴して回る登戸名物の姿も相変わらず無かった。
 降臨の舞台が毎度のように用意されているのに、亀のように首を竦めているのはまことにだらしのねえことだ。
 川の様子を眺めて歩いているうちに公孫戍こうそんじゅ夏侯章かこうしょうを発見。
 「おめえばっかポイント独り占めしてんじゃねえよ!」と、お約束の挨拶をした後、このところ毎回ナマズを釣っている夏侯章には「オレはおめえと違ってガチじゃねえからよお」と、伝説式皮肉を言ってやった。こうすることによって、僭称釣りウマの自尊心は保たれた気になるのだろう。
 どうもここもぱっとしないようである。
 ということで韓流ポイントへ移動。

 韓流ポイントには下野さんとナマズさんが居た。
 「おめえらばっかポイント独り占めしてんじゃねえよ!」
 聞けば、今は釣れていないが、下野さんは午前にも一度来ており、その時はスモールマウスを釣り、ナマズをばらしたとのこと。
 朕は「そこまでして釣りてえか」泣きからの「アタったとかバレたとか、そういう話は聞きたくねーんだよ!」ギレのレジェンドコンビネーションで応えた。

 風弱く澄んだ水。
 流れの通るカバー周りを通しているうちにいつか魚が回ってきて、スティッコーに気付くのを待つしゃないという状況。光量が落ちた後もこの釣りを続けるべきか否か迷うところである。
 「おめえばっかポイント独り占めしてんじゃねえよ!」
 声の主は童威だった。
 この日、釣果を得ていない者は本気の探りを続けていたが、既に釣果を得ている下野さんと、ナイスサイズのナマズを得ている童威からはどこかゆとりを感じられた。釣れた時の様子について解説する。
 その様が、豊富なキャリアを誇りながら滅多に釣れない者には憎憎しくてならないのか、「そのビッグマウスがいつまで続くかな!?」と半ギレしてしまうのが伝説三輪氏の悪いところだ。
 大口でも何でもなく、観察の結果から導き出された仮説だというのに…。
 
 なかなか反応を得られないまま時間が経過していく。
 ナマズさんが撤退。
 「何だ、もう諦めるのか。おめえには根性がねえ」と、他人の都合などお構い無しの伝説三輪式で見送る。
 そしてこの辺りから風向きがあからさまに変わり、雨もぱらつくようになる。
 北からの風は強風に変わった。
 朕はすぐさまスプリットショットリグを解き、表層系のマニックやワンダーで風の当るシャローフラットを狙う。
 しかし、強風にラインを取られ、思うように引きたいコースを引いて来れない。こんな状況下で、少しでも狙いのラインを引いて来れるのはリップレスクランクぐらいのものだ。泳層、泳ぎの質が合っているのかについて疑念はあったが、ここは使い易さを重視。
 そして、ようやく手にした40以上45未満の魚。痩せていたのでアフター回復の個体だろうか。
 離れた場所に居る公孫戍に自慢してやろうと携帯を見てみれば、公孫戍からメールが届いていた。
 アナザーレジェンドの思い出の品、タイニーッブラッシュホッグでナマズを二匹キャッチし、夏侯章はスモールマウスをキャッチしていたのだった。
 どうやら向こうも風が変わって以降にバイトが出始めたらしい。

 やがて、風に寒さを感じ、雨足も強くなることによって一同撤退。
 朕と公孫戍は雨が落ち着くまで、玄妙の門、夏侯章邸へ避難させていただくことにする。
 混沌氏の廟ともいえる場所での食事。味わいとは無縁のコンビニ弁当であったが、伝説たちが君臨した時代の話などしながら、その夕食はなかなか味わい深いものになった。
 これこそ、其の味無きを味とす、というものではなかろうか。

 ※マー語
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tag : 多摩川 ルアーフィッシング バスフィッシング

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Author:dragon
天に替って道を行おうとする人。
玉帝の導きに従い、非凡なる境地を目指している。

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