それぞれの冒険心

 3月23日。

 「おめえには冒険心が無え」
 同じエリアに長く通い、思いつきのポイント移動をしない朕は、伝説三輪氏よりたびたび非難されてきた。
 時勢を知り、理に適った魚を釣ろうとしてのことだが「おめえら大層な御託並べてるけどよお、釣れてねえじゃねえか」とも罵られていた。
 そんなレジェンドⅡだが、現れなくなって久しい。
 白痴なおじさんの戯言、と気にすることもないのだろうが、今年の正月に降臨して来られていた。伝説の威光を畏れる朕は、万が一降臨があった際、礼を失わぬよう冒険心を発揮し、和泉多摩川一帯の様子を見に行くことにした。

 ポイントに入ってみればフィーディングを行う30センチ前後のブラックが居た。しかし、見えた魚はその一尾のみ。
 北風や強い流れからプロテクトされるワンドはあるが、岸からは届かない。冬の場所からこちらに至るまでの道筋の要素がプア。
 こちら側が釣れているとの話も聞くが、大きな括りからこぼれたものを拾う細い釣りをするようなエリアに思われたので長続きせず。

 登戸降臨跡に移動。
 セニョールが居たので様子を聞いてみたところ、今日はこのルアーの実験だ、と伝説式保険を掛けていた。
 このベイト、放置してもゆらゆらと誘いをかける、ナマズにも実績の高いルアーであるとのこと。しかし、この実験もまた、三輪氏のような魚を釣るための要諦を知らぬが故の外に対する誤魔化し、というピュアさが無い。
 張良も来ていて、ちょうど帰ろうとしているところだった。
 曰く、どうにも状況を理解できず頭を抱えてしまったとのこと。
 この「見えてくるものが無いのう」は、伝説三輪氏のそれとは重みが違う。
 かと思えば、アンダーショットリグでンボなスモールマウスを釣ってる者も居た。
 ここは違うと思えば魚を見たり、ここかと思って探りを入れてみれば違ったり、と迷いが生まれるばかりである。

 童威とやはぎがやって来る。
 童威に“弟が釣りを再開するまで”という伝説三輪な条件付きでタトゥラを渡す。
 やはぎはジョイントのソフトプラスチックというまた手の込んだ自作ベイトを持ってきていた。先日見せてもらった蝉ルアーの飛びの悪さの理由も判明。羽根は樹脂で固定されているため空気抵抗がダイレクトであった。朕は、空気抵抗を減らすための具体策を提供。工芸の才はあっても、実釣に関するノウハウはまだまだのようだ。
 
 南風が弱まったのを境に、朕と童威は韓流ポイントへ移動。
 水路を隔てて驚くべき人物を発見。
 何と、伝説界の高祖にして、レジェンドⅠとも称される伝説王倫氏ではないか!?
 十数年の時を経て、よもや多摩川に降臨なされようとは!!
 ところがこれは大いなる勘違い、目の迷い、他人の空似というものでしかなかった。
 何故なら、バスを釣っていたからである。
 王倫氏は、朕の最初のルアーフィッシングの師匠であるが、その釣れなさ加減はこれまで見知った釣り人の中では第一であり、そのヘボっぷりにかけては誰もが認める三輪氏をも寄せ付けぬほどの凄まじさであったからだ。
 魚の釣り方を知っている以上、王倫氏であるわけがない。
 もう降りてこられるような状態にないとは承知していたが、人は徒に“もしかしたら”を期待してしまうものだ。

 李立、蔡沢がやってくる。
 蔡沢はマルタを狙いに下流域に居たとのことで、様子を聞いてみたところマルタの数自体は増えてきているとのこと。
 今日は早上がりしなければならない事情があるので、やむなく撤退するという。
 蔡沢を見送ったのち、ワンダー45にチェイスが見られる一角があったので、ここであれこれの表層系ベートを試す朕だったが、結局釣果を得たのは2インチ・センコーでボトムを取っていた李立だった。
 いわゆる“嘘つきのバス”といわれるものだが「周りが釣れてない時に釣るのは気持ちがいいのう」と、伝説三輪氏の言葉を捧げていた。

 朕は光量が落ちてきたのを機に、朕は冒険心を発揮し堰下エリアに移動し、マルタ及びマルタの瀬付きに伴って現れる肉食コイ科やナマズを求めてみることにした。
 蔡沢のいう通り、マフィアの妨害を乗り越え上がってきたマルタは目に見えて増えている。
 しかし、残念ながら日没後も瀬入りは起こらず、周辺にリップレスクランクを通してみるもバイトは無く、まだ条件が満ちていないと知るのみであった。

 韓流ポイントに戻る。
 マルタの様子を話したところ、李立が諭すようにいう。
 「待っていれば、嫌でも爆釣の時が来る魚です。何故わざわざそんな魚を追うのですか。求めるのですか。まことにあなたたちに言います。今我々が追うべきはこの時期に追うべきなのに捉えられないブラックであり、我々は“根っからのバサー”であったはずではりませんか」
 ジーザス・クライストのような説得力の前に、朕は逸っていた己を羞じるのだった。

 やはぎと童威は、先に朕がここは無理、という判断を下した狛江側に行くという。
 「行きませんか?」
 とのことだったが、朕と李立は応じなかった。
 確かに実績の話は聞くが、岸から打てる範囲に強く寄せる条件が見出せず、そういう場所では集中力が保てない、という訳である。

 その後、朕も李立も一切の反応を引き出せず、伝説三輪式で罵り合っての解散となったが、しばらく経って、童威より狛江側で一匹キャッチできたとの報が入る。
 伝説三輪氏の名言、冒険心が功を奏し、ポイントに入って一投目のイモのフォールで食ってきたという。
 やはり、狛江側には朕の釣るべき魚は居なかったようである。

 ※マーのようによく肥え、丈もある様
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tag : 多摩川 ルアーフィッシング

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Author:dragon
天に替って道を行おうとする人。
玉帝の導きに従い、非凡なる境地を目指している。

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