でんせつまみれ

 降臨元年3月8日。

 かつて多摩川は登戸に君臨した二人の王は、ついに交わることは無かった。両雄並び立った時代は多くの名言を遺して消えていった。
 別の場所で伝説を見てきた朕と公孫戍こうそんじゅは、この日申し合わせることもなく同時に登戸に到着していた。
 ヘッドハンティングされた風を装う工作の拙さ、見え透いた偶然を装うのはどんな益を見込んでいたのか。
 或いは、身内の者が釣りを再開するという口実を設け、一度は譲ったはずの道具を取り上げることに正当性はあるのか。
 傍目には何の得も無いような行状も、伝説諸氏には非常に重要な事項だったようだ。
 空き時間を設け、釣りを目一杯楽しもうとする者が自然と集まり、世間のしがらみとは無関係に過ごす楽しい場として過ごしていたつもりだったが、彼らにしてみれば、いつぞやの殺人犯が言っていた“大人同士の心の戦い”の場だったのかもしれない。
 そんな思い出などを語りながらキャストしていたが、降臨跡の印象は芳しくない。
 
 移動。
 移動した先にはナマズさんの他二人の先客。
 ナマズさんが「彼らはさっき結構釣れてたよ」という。
 よくよく見れば、この先客は若きベテランとその友人だった。詳細を聞いてみると、調子が良かったのは水が動いている間であり、その頃はバスの群れが目に見えるほどだったという。しかし流れが止まってからはまったく反応が無くなったようだ。
 様子見ていどで来ていた公孫戍が帰るのを機に「なんだ、もう帰るのか。だらしがねえなあ」と伝説三輪式で見送り、朕自身は無いと罵られていた“冒険心”を発揮し、堰下エリアの様子を見に行くことにする。

 堰下からポリ公練習場まで見て歩いたが、マルタは見えることがあってもその数はあまりにも少ない。
 ウォーターマフィアの所業が妨害していることは明らかだ。
 せっかく発揮した冒険心も、貧相な川の流れと、殺意さえ覚える嘆かわしい現実を見せられるのみだった。

 堰上に戻る。
 李立、蔡沢さいたくの姿が見える。
 蔡沢は一本キャッチできたとのこと。
 ふらりと現れ何気に釣果を重ねている、地味ながら腕利きの職人と言ったところである。方々の話を聞き、自ら歩いてみたことから総合すると、今はここでスモールマウスを狙うのが無難のようだ。
 李立が今晩シーバスを釣りに行くのでどうか、と誘われるが、朕は体力的に厳しいということで断った。「だらしがねえなあ」と伝説三輪する十代だが、おそらくその体力的衰えは朕より早くに来るだろう。今は生命力に支えられた一時的な勢いでしかないのだから。

 長い沈黙が続き、光量が落ちてきた頃、若きベテランの友人がようやくバイトを捉える。
 若きベテラン曰く「大きいねえ、あと40センチあれば!」と囃し立てる。その言葉を受けて、朕も撮影にカナモ式を試みた。
 しかし、これが限界だった。
 連日誰かが釣っている。
 消えかけた伝説も、新川では釣れたことの無い大したことねえ連中でさえ釣れているのだから新川で鍛えた自分ならノーシンカーワッキーで…と、再び意欲が湧いてくるに違いない。

 釣り人が次々に去って行った後も、朕は一人残りキャストを続けた。
 プレッシャーが緩和されれば、バスは浮いて来るはず。どんなベイトがベストなのかは試してみなければわからない。
 マニックにバイトが出る。
 自前釣果でページを飾れると喜んだのも束の間。呆気なくフックアウト。
 「アタったとかバレたとか、そういう話は聞きたくねーんだよ!」というアナザー式にもめげずにキャストを続けたが終了の時間が来てしまった。
 「ハードだってさんざん引いたさ!でも釣れなかったんだよ!」な、三輪泣きでの撤退である。
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tag : 多摩川 ルアーフィッシング

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Author:dragon
天に替って道を行おうとする人。
玉帝の導きに従い、非凡なる境地を目指している。

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