かの傑王たち

 12月18日。

 土日連続で多摩川釣行の機会があるのは珍しいことだ。

 登戸にかつての主である名物三輪が現れる。
 そこには顔見知りは居らず、ルアーをキャストしている見知らぬ釣り人を発見。
 これ幸いと話し掛け、普通に常識ある大人同士の会話が始まる。
 話し掛けられた人物は実はアナザー氏だった。
 どちらも“伝説”を冠する者同士。この接触はタイトロープそのもの。容易く均衡が崩れるのは火を見るより明らかである。
 朕は、そんな夢のカードのブックを描いて多摩川伝説跡に向かった。

 伝説跡には日曜日らしく多くの釣り人。
 見知らぬ釣り人と会話することもあったが、朕では相手も物足りなかったことだろう。ぞんざいな対応こそしないが、朕は登戸名物のように「この人凄い!」と勘違いさせるだけのはったりの話術を心得ていないのだ。
 昨日、朝から釣りに行く、と言っていた童威が居た。地味な存在ながら腰の据わった釣りへの傾倒ぶりは、原典より北方版のキャラクターに近い。
 それにしても、多くの釣り人が休日の陽気に寄せられて集まってきているのに主宰者の不在はいかにも不自然だ。
 ヘラ台や魚探まで買い、李立からタックルを取り上げるほどに勢いがあったというのに。
 壮んなものは早くに滅ぶとは習ったが、これほどに早いとは。秦の荘襄王そうじょうおうよりも在位期間が短かったのではないかと思われる。

 やがて江三子、セニョールがやってくる。
 「何だ、釣れてねえのか。だらしがねえなあ」と罵り合い、挨拶の代わりとした。
 セニョール自慢のキスラーのロッドを拝見させていただく。魚はまだ釣れていないが、かくのごとく釣り人のバイト率が高いとのこと。
 実釣は振るわなくとも話の種は豊富だ。
 朕はこちらの、公孫戍こうそんじゅはあちらの伝説後日譚を語る。
 登戸を去り、ジさんたちにはわからない新しい愛の形を模索するようになったのは、こちらでもあちらでも共通していて、またしてもレジェンド同一人物説が浮上。
 また、毎度毎度話題に上るのに逸話が尽きないのが伝説諸氏の凄いところだ、と感心。
 日中の温暖が二日連続しても、昼夜の寒暖差が大き過ぎるのか、コイの他に見た魚といえば公孫戍が引いていたBスイムトリガーを追ったニゴイだけという有様。
 誰が言うでもなく「多摩川は見えてくるものか無いのう」という伝説三輪語が聞こえてくる。

 17時の鐘が鳴り、セニョールが帰宅。
 これを機に韓流ポイントへ。
 日中はGETT聖衣を着込んだ身に暑いほどだったが、今は水面から湯気が立っている。
 巻いても釣れるとわかったからには、フィネスワーミングなどやってられぬ。と、巻き倒す朕だったが、ワンダー、エビール、CDアバシをロストし気力を削がれるのみ。
 新川で鍛えた本気を実釣をもって示す!というはったりも虚しく、釣果を諦めた朕と公孫戍は映画の話で盛り上がっていた。
 共に嗜好は別路線だが『倩女幽魂(チャイニーズゴーストストーリー)』の終局場面の切なさ、美しさは映画史上に残る感動的な出来であるという点は一致した。
 しかし、レスリー・チャンがホモ野郎だと知った時の作品を汚された感には参った、と話したところ、『スプラッシュ』で抜群の可憐さを見せたダリル・ハンナが反捕鯨の運動家だったということを知った時の感覚だな、と公孫戍。
 更に話は進み、禿上がった睫毛の長い垂れ目オヤジが出てる映画も好きだったなあ、という。
 「誰?」である。
 ジョニー・デップに借金肩代わりしてもらった…。
 「ああ、ニコラス・ケイジね」いとも簡単に夏侯章が答える。
 で、ヤった後に必ず煙草喫うシーンがあるのが印象的な…。
 ワイルドアットハート?と朕。
 「それ!」
 朕が三回も劇場に見に行った作品である。と、ルーラのママとファックしたくなった朕であった。
 鷲は金曜日に飛ぶという。
 ニコラス・ケイジ出演作品ということで、朕は『キックアス』がまあまあ面白かったと教えた。
 ミンディの愛くるしさは絶品であり、狂ったオヤジが娘に殺人術を仕込むシーンなどは、我が子になるはずだった娘に、ボート漕ぎの歌とスコルピオの台詞を仕込んだ思い出と重なり、涙無しには見られなかったことを語った。
 『狂い咲きサンダーロード』、カート・ラッセル、タランティーノ…ぼくらを熱くするキーワードが止まらない。
 「釣れなくても関係ありましぇ~ん」と、伝説三輪氏は心にも無いことを言って泣いていたが、我々は真にこの名台詞の境地にあった。
 
 下野さんが戻ってくる。
 「さっきナマズ釣れたよ」とのこと。
 朕はキャメラに収められなかったことを悔やむ。
 「そこは“突き落としてやろうか”ってキレないと…」
 遅れてやってきた、もう一人の伝説史官、李立がきびしく指摘する。
 とりあえず写真は携帯に収めてあるとのことで写真を転送してもらおうとしたが、朕も下野さんも昭和生まれのオッサンである。スマートな転送方法がわからない。
 そこで朕は携帯電話の画面をキャメラで撮るという強行手段で記録完了。
 老子曰く「人多伎巧、奇物滋起(人々が巧みな技術を持てば持つほど、邪悪な物や事はますます生まれる)」というわけで、最先端の技術に適応せずとも目的を果たせれば十分なのである。
 全員ノーフィッシュで終わるかに思われていた流れにあって、とりあえず魚が見られたということで足るとし、一同解散となった。

 ※『北の国から』より
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tag : 多摩川 ルアーフィッシング

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Author:dragon
天に替って道を行おうとする人。
玉帝の導きに従い、非凡なる境地を目指している。

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