もうひとつな土曜日

 11月26日。

 ゆうべ眠りすぎ、釣行機会を逸する。そんな程度で泣きはしないが、黄飛虎将軍を見舞う悲劇に涙する朕であった。

 昨日、じゅうぶんに養ったことにより、新川で鍛えた本気を実釣をもって示すだけの気力体力に満ちた。
 先日の極寒の後、伝説跡のアユはどうなったか。まずはこれを見ることからだ。
 今日は晴れて穏やかな土曜日。
 訪れる多くの釣り人に寄せられ、名物三輪氏の降臨もあるかもしれない。
 アユが大量に残っていた場合とそうでなかった場合に備えたルアーを用意し、ゼルのトップウォータースペシャルにカルカッタ201を載せ、トライリーン・ビッグゲーム15lbを巻いて出発。

 伝説跡に入ったところ、5センチ程度の小魚の群れは見えたが、沸くアユは見えなかった。
 伝説三輪氏の痕跡も無かったが、上流側に見知った顔があった。
 李俊、張横、セニョールである。
 「おめえらばっかポイント独り占めしてんじゃねえよ!」
 お定まりの挨拶とともに、途途のことどもを語らう。
 一帯を歩けば、見えるコイ多数、稀にニゴイ、ブラックという感じでアユの姿は見えず。移動すべきか否か迷っていたところ公孫戍こうそんじゅが現れる。
 先日のペリカの返礼として差し入れをちょうだいする。
 魚肉ソーセージがあったので少し食い残し、コイのエサにしてやろうと試みるが、キャストしたらベートだけが飛んでいってしまった。
 「それ、わざとでしょう?」と、伝説不在の今、新たな伝説づくりのための自作自演を指摘されるが、とんでもない。
 レジェンドⅡ並みに“ガチ”でコイを釣ろうとしていたのだ。

 もしかしたら先日の寒さでアユは堰下まで落ちたのかもしれない。
 登戸名物が現れる気配も無いことだし、移動しようかと歩き始めたところ李立が現れる。
 アユがここよりやや下流のポイントで鳥に追われていたという。
 では、待っていればいずれこちらの浅場に来るだろう、ということで伝説跡に留まることにする。

 やがてアユの動きが目立つようになってくる。
 江三子が勢揃いし、元エサ釣りのナマズさんも現れる。
 護岸沿いには多くの釣り人。
 土曜日らしい光景であり、新川節を謳うには絶好のロケーションである。またしても三輪氏は好機を見逃してしまったか、と、朕はレジェンドⅡのために悔やんだ。

 朕はアユの確保に奔った。
 ライブベイトフィッシングはダグ・ハノン先生曰く「服を着ての最高の楽しみ」である。
 今回はナマズを掛けても負けない強いシングルフックも用意している。
 ベートを失っても、下野さんや張横が提供してくれるので、体制も万全。
 理想的な環境、といいたいところだが、多くの釣り人が来ているのに伝説三輪氏が現れないのと同様、多くのベイトが居るのにもかかわらずフィッシュイーターの来る気配が無い。
 辛抱強く待っていると魚食ゴイがやってきて、仕掛けたアユに食い付いてきた。しかし、アユを針から外されるだけに終わった。
 「厳しいのう」
 伝説三輪語が漏れる。
 見れば、李立だけでなく、下野さんまでライブベイトを付けてキャストしている。
 「だが、反応は無い」という千夜釣行なナレーションと共に時が流れていく。
 ナマズは来ていなかったのか、といえばそうでもなくナマズさんが良型のナマズをライブベイトでキャッチしていた。
 ライブベートにまで手を出して“ガチ”になっていた我々は「おめえばっかポイント独り占めしてんじゃねえよ!」と泣きキレるより無い。

 やがて光量が落ち、アユも見えなくなってきたので、朕はライブベートからルアーにチェンジした。視界が落ちるような状況にあってはルアーの方がアピールすることが多いためだ。
 ふと、下野さんがファイトしているのが見える。
 その価値は今年に入り、下落してしまったが、大きなニゴイである。
 ライブベートでの釣果だという。
 「そこまでして釣りてえか?」
 朕は半開きの瞼で、泣いて伝説式嫌味を言うことを忘れなかった。
 ルアー組のポイントを訪ねてみれば、公孫戍が30クラスのスモールマウスを釣ったという。
 「突き落としてやろうか」泣きで称える。
 寒冷の後ということであれこれと危惧してみたが、蓋を開けてみれば、いつもの釣れないこともない多摩川であった。

 日没と共に韓流ポイントといわれる、江三子のポイントへ移動。
 日没後、魚が入ってくるのではないかと目されている場所である。
 このラウンドは何かと作法に厳しい、と李立から聞いてはいたが、とにかく釣りたい朕は付き合ってみることにしたという次第。
 また、このような経緯なら釣れなかったとしても「おめえが良いっていうから来てみたけどよお…釣れねえじゃねえか!」と、伝説三輪すれば良いだけのこと。

 エビを模した誘いに実績が高いとは聞いてはいるが、この暗さならアトラクター寄りの方が魚を寄せられるのではないかということと、朕のタックルではベイトにもそれなりの重量が必要だということで、6インチクラスのワームを使用した。
 しかし、ストライクを得ていたのは、いわゆるフィネスをやっていた者たちだった。
 下野さんは35以上40未満といったスモールマウスをキャッチし、李立、公孫戍、夏侯章かこうしょうはキャッチこそできなかったもののストライクは得ていたという。
 これだけプレッシャーが緩和され、目視も利きづらい状況にあるのなら、却って存在感の強いベイトの方が良いのでは?と、思っていたがスモールマウスのセレクティブさは想像以上だった。

 下野さんを除いて「釣れるまで帰らん。お前も付き合え!」なレジェンドモードではありながら、伝説の人たちのような必死さに欠く我々は釣りに没頭できるひとときを楽しんでいた。
 やがて、石野真子と長渕剛の結婚は子供心にショックだったと語りだした公孫戍。
 すかさず夏侯章が「ストーンズバジャーナ」といった。
 「章、下ネタによりマイナス五匹」
 公孫戍が夏侯章に突き付ける。李立も一緒になって責め立てていた。
 品位を重視する江三子の掟はかくも厳しいものなのか。
 そんな折、寒さが腹に響いていた朕は「ウンコ漏れそう」と呟いた。
 「なんじも下ネタの咎によりマイナス五匹である」と告げられる。
 「戍子じゅし寡人わたくしの言は幼児のごとく稚拙なものですぞ」と、朕は食い下がった。
 しかし、公孫戍は「天子たるもの人間じんかんに良民としての模範を示すべきである」と、かの商鞅しょうおうにも劣らぬ厳正さを示した。
 どのような優れた法を定めても、上がこれを破るがためにくには治まらないという。
 マイナス五匹という裁定に、当初は反感を示した朕だったが秦を強国に導いた商鞅に敬意を表し、朕も孝公のような度量を示すことにした。
 かくして朕は御不浄のため、この場を一人去った。




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tag : 多摩川 ルアーフィッシング

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Author:dragon
天に替って道を行おうとする人。
玉帝の導きに従い、非凡なる境地を目指している。

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