三輪望

 11月4日。

 「誰でも釣れる発勁はヌルい」
 これまでに正解はやり尽くしてきたというベテラン釣り師はそう言った。
 確かに誰でも釣れていた。
 しかし、問題はそこから先である。
 当たり前に釣れている状況にあって、伝説三輪氏は悲しくなるほど釣れていなかったのだった。
 使うベイトは小さく、ライトタックルを用いる以外はバスと同じだよ、と説明してあげたのだが、その意味を理解できなかったようである。
 
 「シーバスにジャーク、トウィッチは邪道」
 かつて、どうしてもドブシーバスが釣れない、正解をやり尽くしてきたという三輪氏に、照明が効いた場所での釣り方を教えた朕だったが、李立にはこう言って否定していたという。
 かくして実釣を始めたところ、ジャーキングやトウィッチングを用いる李立は数を稼ぎ、「おめえばっかポイント独り占めしてんじゃねえよ!」と、泣いて恫喝しポイントを横取りした三輪氏はなしのつぶてだった。
 事の顛末を見ていた朕が三輪氏の諦めたポイントに入ってみたところ、やはりジャークベイトで釣ることが出来たのだった。
 そんな鍍金完全剥離の思い出一杯の発勁と川崎ドブを堪能していた李立より釣果報告が届く。

 更に後日、多摩川伝説跡ではスモールマウスまでキャッチしていた。
 朕は悔しさと怒りで顔を赤らめながら「おめえはしょっちゅう行ってるから釣れるんだ」と、伝説式大人の対応で返答してやった。

 かくしてようやく釣行機会を得たこの日。
 前日までは、上流側にポイントを求めて旅をしようと思っていたのだが、当日になって面倒臭くなり、手軽に行ける伝説跡の様子を見に行くことにした。
 登戸名物が現れる可能性の無い日ではあるが、「オレはよお、フィールドに立ってルアーキャストできるだけで満足なんだよ」という伝説王倫氏の言葉を思い出し、望む結果は得られずとも、楽しむことを考えよう、と家を出た。
 このレジェンドも名言豊かなお方だった。

 登戸入りしてみれば鷺を始め魚食鳥が集結し、漁を行っていた。
 アユは上流側に濃く、小さなアユにさえ錆が入っていた。
 水位は低くなっていたが、流れが弱まり、一本調子の流れから緩急が見えるように変化しており、スモールマウス、ナマズの姿もよく見られた。
 アユの群れに呼応しているように思われたので、こだわりのアンダーショットリグを捨て、スイミングの釣りを試みる。
 しかし、ニゴイのバイトは出るもののフッキングにまでは至らず、ナマズやバスはルアーを無視。

 やがて李立が現れる。
 下流側で50アップのスモールマウスを見ることはあったが、反応だけで釣れなかったという。
 「何だ、釣れなかったのか。だらしがねえなあ」
 「オレだってちゃんとやってるよ!」
 と、伝説式の礼を交わし、これまでとこれからについて論じ合う。
 今や、朕は教わる者、李立が説明する者である。
 後輩であろうと、よく釣る者の話には大いに耳を傾けるべきだが、自尊心が異常に強い、正解をやり尽くしてきたというベテランにはこういうことが心底耐え難かったのだろう。
 朕は伝説三輪氏のために憐れんだ。

 ベイト、対象魚ともに申し分なく居るが、ストライクを得られずに時間が過ぎて行き、やがてバスやナマズの姿も見えなくなっていった。
 ここで李立は他のポイントの様子を見に行くと言って移動。
 朕はベイトが集まるシャローフラットの集魚力を信じ、再びの機会を待ってみることにした。
 
 陽が傾き、光量が落ちてくる頃、ようやく魚の反応が出始める。
 ボイルも見えるようになり、チャギンスプークJrにスモールマウスがバイト。しかし、これはフッキングせず。
 スモールマウスは相変わらず難しかったが、やはりアユは大型魚を惹きつけており、ニゴイとコイはキャッチできた。
 「おめえらBフォロワーは良い、良いっていうけどよお、オレには使いどころがわからねえ」と、レジェンドⅡに言わしめたBフォロワーが久しぶりに活躍してくれた。
 コイ科とはいえ、久々の多摩川釣果を喜ぶ朕であったが、宇奈根エリアに入っていたという李立からの釣果報告で気分は暗転。
 同じ釣果でも、コイ科とナマズではその価値が手塚治虫とゆでたまごほどに違う。
 これでは朕の釣果など塵芥に等しいではないか。
 当然のように、目を怒らせ、半泣きになって「突き落としてやろうか」と返信した。

 帰り際、ナマズさんに会う。
 買って来たというワームフックを見せてもらう。
 朕は適合するワームのサイズと、場面によって使い分けるワームのタイプをレクチャーし、別れた。
 レジェンドⅡの大好物が、いよいよルアータックルを持って顔を出しそうである。絶えず訪れる見ず知らずの釣り人、顔見知りの新人…舞台装置は万全の状態で稼動している。

スポンサーサイト

テーマ : 仕事
ジャンル : 就職・お仕事

tag : 多摩川 ルアーフィッシング

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

dragon

Author:dragon
天に替って道を行おうとする人。
玉帝の導きに従い、非凡なる境地を目指している。

最新記事
月別アーカイブ
リンク
検索フォーム
QRコード
QRコード