伝説元年旅行記

 9月16日。

 「オレは昔、新川で鍛えたからよお」
 伝説三輪氏の名台詞と共に、この日、朕と史進は霞ヶ浦流入河川の一之瀬川を目指していた。
 現在は夏なのか秋なのかはっきりしていなかったが、今やいつだって霞水系は容易ならざるフィールドになっているので、予算的にも時間的にも余裕をもって行ける時が行き時だ、ということで一泊二日の霞釣行が決定したという次第。

 二十代の頃は霞水系といえばただひたすら釣りをするだけの場所だったが、今はヤンキー麺、ランカーズ、湖北の美熟女、炭や、芸人パブ、しをみ食堂、純輝といった楽しみもある。土浦ソープは昔から興をそそられているが、さすがにそこまでの予算は確保できなかった。

 朕が釣り以外の霞釣行の魅力を語っているうちに早くも一之瀬川到着。
 河口にはボラの魚影が濃い。
 かつては茶色濁りの水だったが、今は緑がかった濁りで、透明度もいくぶんか上がっている。
 本湖でも可能性ありか、と、軽く流してみたが反応は得られない。
 河口付近の川筋でベートフィネスで丹念に探っている先客あり。
 平日の朝からこんな小場所にも先客がいることに驚く史進だったが、ここは東のメッカともいえる地。平日でもバサーは多い。それに朕が狙っているのはもっと上流の水の動きがはっきりわかる魚止めの瀬周り。何の問題も無い。
 狙いのポイントに入る前に途中のちょっとした変化、カバーを打ってみたが、史進が小バスのチェイスを見るのみ。
 こんなことを丁寧に続けてもきりがなかろう。朕はさっさと瀬を目指す。
 場を荒らさぬよう丁寧に、とストレートワームをノーシンカーでドリフトさせていたが反応は得られず。
 魚が入っていないのか。夏が残っているならここは一級ポイントのはずだが…いや、わかりやすい一級ポイントだけに叩かれまくって魚が寄らなくなってしまったのか。
 と、思いきやボイル発生。飛び上がる小魚が見える。
 繊細な攻めではかえって意識されなかったというわけか。
 スーパーフルークをツイッチしながら引いてみたところ、ピックアップ時にブラックが飛び出してくる。その一瞬でも40アップとわかる魚体だった。
 こちらの姿を見られてしまったからもう終わったかと思われたが、すぐにボイルが起こった。
 相当にやる気があるようだ。
 以前、ザ・タックルボックスで仕入れた10インチオーバーのビッグカーリーテールを巻いてみた。二回連続で40アップのストライクを得たがフッキングにまでは至らず。
 しかし、大型ワームのストレートリトリーブがこれほど効くとは…このメソッド、実は朕が進んで取り入れたのではなく、ザの店長に奨められてやってみたものである。
 場を休めるつもりで他のポイントを見ているうちに、我々のような遠征組も何人かやってきてたちまちハイプレッシャー化。
 午前中はこの川で費やすつもりでいたが、イージーキャッチの魚のみを求めているので、こうなると集中力が保てない。
 午後からランカーズに寄り、ヤンキー麺を食い、備前川を攻め倒すつもりだったが予定変更。
 ランカーズ開店まで備前川で時間を潰し、改めて備前川をやり尽くすことにする。

 レジェンドⅡゆかりの新川を越え、桜川を渡り、備前川に入る。
 川を覗き込んでみると昨年の秋同様、ボラの群れが無数に水面に見える。
 この川に魚影が濃い理由は、実のところ朕にはわかっていない。
 汚いドブで、変化は単調。一見しただけなら切り捨てるような場所である。
 ところが昨年、ランカーズの店長に釣れるといわれ、実際、朕はストライクを得、李立や施恩は釣っており、釣れるポイントという印象が刷り込まれた。
 さすがに低水温期になると魚は消えるそうだが。
 ここでもバスの好みは横の動きのようで、開始早々にビッグワームのストレートリトリーブに40アップがバイトしてきた。
 バイト直後、ロッドを落としかけるというへまをやらかし、から焦ったが魚は付いていて一安心。
 ところが、自慢がてら史進に取り込みを手伝ってもらおうと移動しているうちにテールウォークと共にフックアウト…。
 残念なことをしてしまったが、このメソッドに自信が生まれ、落胆することなくランカーズ開店までを過ごす。

 約一年ぶりのランカーズ。巡礼の一ヶ所目踏破である。
 店長に話を聞いたところ、現在は流入河川が釣れていて、夏の場所、秋の釣りだという。
 但しハードベイトでは見破られるのでソフトプラスチックのスローリトリーブが良いとのこと。
 して、オススメのルアーは?といえば普通にズームの大型カーリーテールワームだった。
 朕はバークレーのバルキーなシャッドテールワームとスイムジグといった今すぐ使うようなものばかり買い、散財するつもりが地味な買い物となってしまった。
 しかし、朕は伝説三輪氏と違ってガチだから仕方の無いことなのかもしれない。

 備前川に戻る前に、霞釣行時の定番、ヤンキー麺へ。巡礼二ヶ所目踏破。
 前のめりなこの店の斬新はレモンラーメンだけではないのだが、またしてもレモンラーメンを注文。
 この後長い屋外作業が控えているので満腹するわけにもいかず、腹八分目を心がけなければならないのが残念なところ。
 ここで朕は「マイアヌスの川でマスを釣って食べたことは?」という翻訳の言葉の足りなさを指摘。あそこはマスの部分をしっかりブラウントラウトと訳さなければ、質問のくだらなさ、面白さは伝わらないのだ。
 あのジョニー・ノックスビルも今や四十六歳である。

 再び備前川へ。
 隠れ水門を探しつつ、ひたすら巻き歩く。
 全体的に浮きゴミが多く、のっぺりとした景観でストラクチャーはプア、カバーは単調なので、釣れると信じられなければ続けるのは厳しい。
 ふと店長が現れる。
 これから所用があって市内を走るのだが、良かったらオススメポイントまで運んでやるとの仰せ。
 備前川は今まで歩いたことのある範囲しか知らないので話に乗ってみることにした。
 自分たちで探して見つけられなければ、自らのヘボさに打ちひしがれてしまうところだが、他人の話に便乗すれば、例え芳しくない結果だったとしても「おめえが良いっていうから来てみたけどよお…釣れねえじゃねえか!」とレジェンドギレし、釣れないのは自分がヘボいからではないという気になれる。

 かくして我々は店長に案内されたポイントからスタート地点までを釣り歩くことにした。
 朕は30クラスのバスの姿を見ることはできたが、バスの反応は得られず、ビッグワームにバイトしてきたのは魚種不明の細長い何かだった。しかし、これもフッキングせず、やがて藪蚊の猛攻に音を上げ、街中の薬屋に退散。
 虫除け機とキンカンを買い、史進と合流。
 どうだったかと尋ねると、小バスのバイトのみで釣れなかったという。そしてやはり藪蚊の猛攻が辛かったとのこと。
 「何だ、釣れなかったのか。だらしがねえなあ」
 己の不甲斐なさを棚に上げ、相手を謗るのはお約束である。
 今回は外したが、魚の動きはいつも釣り人側の思惑通りになるものではない、ということは釣りに打ち込んできたならわかっていそうなものだが、新川で鍛え、バスに限らずいろんな魚種を狙ってきたというベテランにはそういったことがわかっていなかった。
 だからこそ、他人が案内してくれたポイントで釣れなければキレることができるのだ。やはりレジェンドを冠す者は只人ではない。 

 時は夕刻に入る。
 我々はひたすらキャストを繰り返していた。魚は確実に居る場所である。きっとチャンスはあるはず。ボーズを逃れられるならチャネルキャットだって構わない。光量が落ちればプレッシャーも緩和されて釣り易くなるはずだ。
 「もしかしたら釣れるかもしれねえじゃねえかよお!」
 今が伝説式虚仮の一念を発揮すべき時。
 しかし19時が近付く頃、遂に集中力が切れる。

 再びランカーズに寄り、今日の結果を報告。またいずれかの来訪を、といって店を後にした。
 次は美熟女と蓮根の天ぷらだ。

 宿にチェックイン。
 期待通り美熟女が受付だった。
 史進に彼女が件の美熟女だと教えたところ「美熟女と聞いて、石田ゆり子みたいな人を期待してたのに」と返される。
 そういうあからさまな美女ではない。一見普通の中年女性ではあるが、しかし、どこかそこはかとない色香を漂わせているではないか。さながら雑草に埋もれているために、気にして見なければ気付かないが、目を凝らしてみれば確かに美しい花一輪、ひっそりと咲いている。そんな感覚がたまらないのだ。と、朕は熱弁した。
 「なるほど」と史進。
 来年は恋文でもしたためて訪れたいものだ。

 炭やにて「お疲蓮根」。
 美味い料理、美味い酒。
 酒精への抵抗力が弱くなってしまった朕ではあるが、純度の高い酒であれば多少酔いの快楽は愉しめる。
 ここでは、うやむやな描写でごまかされがちな異次元世界を、逃げずに真っ向から描いた『ヘルレイザー』の素晴らしさについて語り合った。
 映画史上最高の部類に入るファンタジー映画である。但し、三作目以降は見る価値が無い。
 『ヘルレイザー』に勝るファンタジー映画といえば『マッドマックス1,2,4』ぐらいのものであろう、ということで初日終了。

 9月17日。

 耐性が無いところに酒精はやはり効いた。目の奥と後頭部にやや痛みを感じる。
 米純度高めの酒だったから軽度で済んだが、混じり物たっぷりの安酒だったらしばらく使い物にならなかったであろう。
 昨日の話では流入河川がお勧めのポイントだったが、本湖にもどこか無いものか、と東浦湖岸線を走っていく。
 至るところでボラの存在は確認されるが、アオコ混じりでどんよりとし、いかにも水質が悪そうだった。
 しかし、そういった印象からポイントを無視すれば「何でそんなことがわかるんだよお」と、伝説三輪氏に責められてしまうかもしれないので、水門と杭が見えるポイントを一流してみたが、やはり無理な感じしかしない。
 予定通り流入河川を打つのがよろしかろう。

 さすがに土曜日である。
 有力と目された川には既に釣り人が入っていた。
 薗部川、霞ヶ浦大橋下流域の用水路は先客も居らず、流れのあるポイントに入ることは出来たがバスの気配も無かった。
 結局、夜越川まで来てしまった。
 幸い、上流部には釣り人が居らず、朕は早々に30クラスのストライクを得たが、フッキングを決められず。史進は40アップを二匹見たそうだが、こちらも決められなかったようだ。
 「おめえはご大層な理屈を並べてるけどよお、釣れてねえじゃねえか」「まあよお、オレはおめえと違ってガチじゃねえからよお」
 我々は伝説式の恩恵をもって、思うようにいかないしんどさを凌いでいた。

 バブル期が終わってもバスフィッシング愛好者は依然多い。
 誰でもわかるようなポイントはたちまちハイプレッシャーとなる。真っ先に一級と思われる場所を目指す朕のやり方は釣れている時代だったから通用していたのであって、今では時代遅れの手法なのかもしれない。
 午前中を目一杯使って有力と思しきポイントに入ってみたが「霞は見えてくるものが無いのう」というレジェンドⅡな言葉しか出てこない。
 他に有力な川、水路も思い浮かばず、昼食後は霞水系の大きな水の流れがぶつかっていると思われる外浪逆浦最下流部に入ってみよう、ということで予定より早く純輝に向かった。

 タイミング悪く昼時と重なってしまった純輝は満席状態。それでもすぐに空きが出来、並ぶという愚は犯さずに済んだ。
 ここでも後の“本気”のため、満腹には出来ず、腹八分目で抑える。
 芸人パブ、土浦ソープは行けなかったが水郷巡礼で巡るべきところは巡ったといってもいい。今回は純輝だったので次回はしをみ食堂に参ろう。

 さあ、これから一気に外浪逆浦最下流部だ、と、道中、純輝の支店を発見。こちらは潮来店の混雑が嘘のように空いている。支店があるとわかっていたならこっちにしていたところだが悔後に立たず、というものであった。

 外浪逆浦最下流部。
 利根川に隣接する水門のあるポイント。
 護岸は一部冠水し、アプローチはから面倒だったが、ボラのスクールはあちこちに見え、水質も悪くないように見えた。
 護岸の周りに葦が茂り、水門や杭もあったが、ストラクチャーが単調なのか、ブラックからの返答は無い。
 そうこうしているうちに夕刻がどんどん近付いてくるような感覚に陥る。
 今から新規ポイントを探るゆとりは無くなっており、次なる候補地としては新利根の排水機場と堰ぐらいしゃ思い浮かばない。
 与田浦ルートで新利根を目指し、気になるものが目に入ったら軽く打っていこうということで移動。

 与田浦上流部の水路に入ってみる。
 細い直線の続く水路だが、水路に連なるボートがこの単調な中で存在感があり、水も良さそうに見えたので打ってみることにする。しかしバイトはあってもバイトしてくる魚はルアーと大して変わらない大きさの小バスばかりだったことにより、外していると悟り、再び新利根を目指す。

 八筋川に勢いの良い流れ込みを発見。
 かつてはブッシュに覆われていた水路だったので手出しできずにいたが、今はコンクリート護岸でエントリーが容易になっている。
 魚が跳ねているのが見えていたので、とりあえず流れ込み周辺と足元護岸一帯を打ってみる。
 一見良さそうに見えたが、バスの気配は感じられず。
 もしかしたらルアー、メソッドを変え、じっくりやれば釣れるのかもしれないが我々のスタイルではない。
 切り捨てる。 

 新利根川に沿って上流側へ進んで行く。
 排水機は動いておらず、堰は無くなっていた。
 こういったものが今は必要無いということを、たわわに実った稲を見て気付くべきだった…朕は、農という人間の生を支えるうえできわめて重要なことについて意識の希薄な愚民に成り下がっていた己を恥じた。
 見込みは大いに外れていたが、陽は傾き、もはや他のエリアに行っている余裕もなければ、良いと思えるエリアもわからない。
 新利根の中にポイントを見つけるほか無い。
 破竹川合流点まで見てきた感じでは、堰が無くなっていても柴崎周辺が水も良くベートが濃いように感じられた。そしてこの一帯は陸っぱりもし易いのが良い。
 ではここで「夕間詰め、最後のチャンスに賭ける」だな、と千夜釣行的風景を収めようとしたところ、キャメラが失くなっていた。
 あのキャメラはただのデジカメではない。上皇の形見の品なのだ。この広大な霞一帯のどこかで落としたのだから探したとて無駄であろう。
 しばし、ショックを覚えるが、娘を失った時のショックに比べれば何ほどのことがあろう。大切な物ではあったが、所詮モノではないか、と気を取り直し、画質の悪さには定評がある携帯電話のキャメラを使用。
 この一帯は激浅のシャローフラットであることは過去の経験上知っている。また、光量も落ちてきたのでプラグでもごまかしは利くだろう。ということで、朕はこれまで出番のなかったチャギンスプークJr(ラトル音消去済み)を選択。
 『How to オカッパリ』が収録された季節はいつ頃なのか。そもそもあの頃はどこでもそれなりに釣れていた時代である。それでも新利根といえばトップウォーターなのだ。
 「新利根のバスは音で寄せてじっと待つ」ではないが、時折ポーズを入れてのドッグウォークに水面が割れる。
 大きくはないがキーパーサイズ。朕にとっては今年初のラージマウス。
 ほどなくして、これまたラトル音を殺したNW2000ポッパーに小バスがヒットするもこちらは史進が見ている前でばらす。
 「何だ、釣れなかったのか。だらしがねえなあ」と、伝説式で罵られる。
 「そういうおめえさんはどうなんだよお?」と、朕も伝説式で返したところ、「オレだってちゃんとやってるよ!」と、完璧な答えを返してきた。
 しかし、ここまでだった。
 その後、完全に陽が落ち、反応を得られることもなく、遂に刀折れ矢尽きたような感覚に陥り、納竿とした。

 新利根での釣果を報告したところ、登戸に入っていた李立より返信あり。
 「新川はやらなかったのか?おめえは結局新利根でしか釣れねえのか。大したことねえなあ…オイ!」と来たので、「多摩川のナマズはフラットラップ引いてくるのがパターン。つまらねえ釣りだ」と返し、伝説式でそれぞれの釣果を喜んだ。

 帰路、法外な料金設定のSAメシを拒否し、大泉から狛江の間に駐車場付きの飯屋を探してみる。
 「メシどうする?」と朕が問いかけると「確かに腹減ったな」と史進。
 朕はすかさずダメ出し。
 釣れなかったなら「メシなんて食ってられるような状況か?」と凄むか「メシなんか食わねえぞ!」とキレるのが伝説の時代の作法なのだ。
 「すみません、迂闊でした」と、史進反省。
 結局、ブラックジャンクフードを食って帰路に就いた。

 釣り自体は冴えない内容となってしまったが、それでもバスフィッシングはあらゆる釣りの中で一番楽しいと感じる朕である。
 ということで“またいつか”の遠征に思いを馳せるのだった。

 ※マー語




スポンサーサイト

テーマ : お仕事奮闘記
ジャンル : 就職・お仕事

tag : バスフィッシング 多摩川 ルアーフィッシング

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

dragon

Author:dragon
天に替って道を行おうとする人。
玉帝の導きに従い、非凡なる境地を目指している。

最新記事
月別アーカイブ
リンク
検索フォーム
QRコード
QRコード