マーの心

 3月25日。

 長く続いた冬。
 雪が融け、大地が顔を出し、やがて北国にも訪れる待望の春―。
 「ケン、フィッシュオン」
 陸奥湾の景色と、水中でもがくメバルの映像をイメージしながらやってきたのは陸奥湾中央部に位置する夏泊半島。
 以前、都落ちしていた頃は手元不如意のため、ジグのロストを恐れ、日中の攻略が適わなかった釣り場である。しかし今回は補充可能なだけの銭もあることだし、存分にやってやろうという構え。
 港内を覗いてみれば、視界の及ぶ範囲に生命感は無い。この地方の夜間の気温が四度以下であることを考えればシャローに魚が見えないのも道理であろう。
 しかし、この漁港の船道から外海にかけては十メートルを超える水深があるし、周囲は岩礁帯となっている。十メートルを超える水深も、陸奥湾全体から見ればシャローの一部になるのだろうが、早い個体が現れるならこういった場所ではないか。
 期待を込めてキャスト開始。
 だが、反応は無い。
 魚影がまだ薄いだけで、丁寧に探っていけば…と、深場に絡む沈みブロックの一帯を根掛かり上等、とばかりに探り続けること約三十分。
 何事も起こらず。
 釣れる時期になっているならば既に何らかの手応えを得られる場所である。
 沿岸はまだ冬で魚はまだ入ってきていない、と思いながらもここまで来てしまったのだ。「もしかしたら釣れるじゃねえかよお!」と、伝説君臨の時を過ごした者として自らを奮い立たせポイント移動。
 
 夏泊半島に入る目印となっていた手作り弁当が魅力のコンビニエンスストア、オレンジハートが無くなっていたことや、幼少時代の夢の遊び場だったキディランドの無残な廃墟がやけに悲しかった。

 青森港。
 やけに水が濁っている。近くに大河川など無いのに…と、思い出す。冬の間、大量の捨て雪が港内に捨てられていることを。
 流れ込む雪代、最低気温の低さ、加えて雪が大量に投げ込まれた港内。
 突堤はかなり沖まで延びているので、そこの様子を見てから、と思ったが、雪が残っているため4月まで立ち入り禁止とのこと。
 もはや絶望的である。
 とはいえ、一日で済む用事のためにわざわざ一週間という休暇をとって来たのだ。いちど関東に戻って釣り三昧してから再びこちらに戻ってくるというのが理想だが、そんな金は無い。
 マーならきっとこう言うだろう。
 「元取らなきゃよ」と。
 というわけで更にポイント移動。
 ロックフィッシュを諦め、上磯路を北上し、河口付近でトラウトの狙える川を目指すことにした。

 道中に数箇所漁港があるからということで一箇所に立ち寄ってみたが見た目にいかにも望み薄。ここで釣れるぐらいなら夏泊半島で既に釣れていたことだろう。
 結局、蓬田村まで向かうことにした。

 蓬田村の小さな河川、河口一帯。
 春進む頃にはシラウオが遡上し、シラウオに狂うイワナやヤマメが釣れる川である。
 しかし、まだ一帯は春がかろうじて芽吹いたばかりといった趣。
 案の定、魚の気配は無く、ルアーを一通り流してみたが魚影が見えることも無く。
 春、シラウオの遡上期には下流までベイトを求めてトラウトが下ってくるという印象でいたが、真実は雪代の影響を嫌い、適水温を求め動き回るうちに下流側に辿り着き、そのタイミングがちょうどシラウオ遡上期と重なり、ベイトが豊富なため下流域に残留するといったところではなかろうか。

 かくして明らかに時期を外しているということが判明し、蝦夷地北伐など調子のいいことも言ってられず、大いに意気を挫かれてしまうのだった。
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tag : ルアーフィッシング 青森県

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Author:dragon
天に替って道を行おうとする人。
玉帝の導きに従い、非凡なる境地を目指している。

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