瑞祥

 1月27日。

 最低気温が氷点下にまでなる日が続いていたが、この日はやや上向いた。
 こういった天象の機微を見逃してはならない。
 かくして朕は「新川で鍛えた本気を実釣をもって示す」べく、多摩川へ向かうことにした。

 バジラヤナの時代も、尊師の威光が失われて久しく、何事もなく過ぎている。そこで、かつて猛威を振るい、この道に君臨していたレジェンドの功績を忘れぬよう、この日から元号を“伝説”と改めることにした。
 暦の進みは現在の太陽暦に乗ずる形とし、この日を伝説元年一月二十七日と定めた。
 伝説の時代の史官はサマナ諸君である。

 登戸入りしたところ、相模湖常連バサーの姿があった。
 話を聞いてみると、既に三匹のスモールマウスをキャッチしているとのこと。すべて二つの流れが合流するストラクチャー周辺だった。
 そのポイントには朕のタックルでは届かないため、人工岬周辺を打てるポイントに移動する。

 セニョールが居た。
 『銃、病原菌、鉄』は面白い内容だったが、日本での漢字のありかたに対する解釈はいただけない、という朕の意見に、日本で暮らすヨーロッパ人も同感だという。
 セニョールとはこういう話が出来るのがいい。
 それはともかく、釣りの方はさっぱりである。上向いた気がしたが、ここまでは及んでいないというのか。
 ふと下流を見れば、先程の相模湖常連バサーが魚を釣っていた。遠目にも40アップだとわかるスモールマウスだった。
 魚はしっかり動いている。諦めることもないのだ、とキャストを続ける。

 水門工事の重機が木を根ごと引き抜いている。かつて野生動物を育んでいた空間が人の手によって瞬く間に破壊されていくのは見ていて痛々しい。
 もう少しやりようはあろうに、とセニョールと話していたところ「あれが本物のヤクザですね」と、李立が現れていう。
 「ああいう輩をウォーターマフィアというのだ。親玉はこの国だ」と、朕はひきとった。
 ほどなくして、馮諼ふうけんも現れる。完全に陽が落ちてしばらく時間を置いた遅い時間にぽつぽつ釣れているとのこと。

 一同散会し、それぞれのポイントを打つが何事も起こらず、やがて迎える日没。
 またしてもノーフィッシュに終わる。
 「多摩川はもう飽きたってことにしとく?」「いやいや、釣りという低レベルな競争からの卒業式でしょ」と、釣果は振るわなくとも、伝説は今日も輝いているのだった。
 
 空を見上げれば三筋の雲が西から東へまっすぐに抜け、うち一本は川の上で寸断されていた。天相を読む術を知らない朕は、ひそかに浄化の雨が降る兆しであることを願った。
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tag : 多摩川 ルアーフィッシング バスフィッシング

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Author:dragon
天に替って道を行おうとする人。
玉帝の導きに従い、非凡なる境地を目指している。

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