十有余年

 2月6日。

 昨年の今頃は、既に何本かのスモールマウスをキャッチできていた朕であるが、今年はまるで振るわない。
 魚はしっかり居て、実際多くの者が釣り、狙い方も示されているというのに、スモールマウスという魚がやり込めばやり込むほどにわからなくなっていくかのごとくである。
 「多摩川はもう飽きた」といって、伝説三輪氏のように悟ったような口を利くような厚さがあれば、とも思うが、それは不知知病といって、いにしえの聖人がいう、失と一になる下の道というもの。
 マルタはまだ遡上の話を聞かず、ナマズは上向きの機を捉えられなければ厳しいこの時期、スモールマウスが今最も多摩川で釣り易い魚である。
 ならばスモールマウスを狙い続けなければならないだろう。

 そうこうしているうちに二月に入ってしまった。
 この日、天候はやや上向き。潮回りは良好。この状況で釣れないということはないだろう。
 ということで“本気”と共に、巻き用とソフトプラスチック用に設えたスピニングのトゥータックルで多摩川に向かった。

 登戸入り。
 温和とまではいかないが、穏やかな土曜日である。釣り人の数も多い。しかし、今日も登戸名物は見えなかった。いつでも釣りは楽しいものだが、それでも名言製造機の不在はどこか物足りなく感じられる。
 張横がいた。
 「おめえばっかポイント独り占めしてんじゃねえよ!」と、名物式挨拶。
 このエリアの水温の移り変わりを聞き、これからを想像してみる。ストラクチャーとカバーを絡めたボトムレンジの釣り、攻撃的なストライクを誘う表層寄りの釣り、どちらかで必ず上手くいきそうなものである。
 セニョールと李俊、次いで李立と施恩がやって来た。下流部には江三子らしき姿も見えている。
 朕は人工水中岬と二つの流れがまとまるポイントの間を行き来しながら、風が吹いてはシャロー側にリップレスクランクを飛ばし、弱まってはキャロライナリグを飛ばすという具合に過ごしていた。
 しかし、レジェンドⅡいうところの「見えてくるものがないのう」状態。
 久しぶりのシャッドマンに会う。どうやらぽつぽつと釣っているようだ。
 見知らぬ釣り人だけでなく、顔見知りも続々とやって来る。さすがは土曜日だ。
 スモールマウスの寄りはともかく、登戸エリアは多くの釣り人を寄せている。
 こういう場で誰かを捕まえては新川節をぶつのが好きだった伝説三輪氏が現れないのはまったくもって不思議でならない。

 やがて李立と施恩がこのアリアにいても埒があかぬ、と上流域へのクエストに向かう頃、江三子がこちらにやって来た。若者は去り、一帯はかつての若者たちの岸辺となった。
 セニョールがマッドマンクロウをキャストしていた。
 朕は、二十代の終わりごろ、この登戸エリアでスペイン人だというスマートな青年からそのルアーもらったことがあると話したところ、セニョールがおや?という表情をした。
 朕はスペイン人青年が話していた内容を言ったところ、「それ私ですよ」との返答。
 実は我々は古くからの知り合いだったのだ、といって笑った。

 実釣のほうはというと、朕は相変わらず無間の迷宮の中である。
 老いを感じさせるオッサン軍団の弛緩ムード。そんなひと時を打ち破ったのは下野さんだった。
 42センチというナイスバス。
 いよいよ動き出したか、とにわかに色めき立つオッサン軍団。
 しかし、次を得たのはまたしても下野さんだった。
 何と、朕の多摩川本命魚。
 朕がもし登戸名物なら、目を怒らせ、ドスの効いた低い声で「突き落としてやろうか」と泣いていたことだろう。
 撤収するシャッドマンとすれ違う。上流側で一本キャッチしたとのこと。多くを語る人ではないが、美味しいところはしっかり持っていく人である。
 
 上流域へ行っていた李立と施恩が戻ってくる。施恩がジャークベートで一匹キャッチしたとのこと。
 平凡なベテランたちにとって彼らの釣りは異次元の出来事にさえ感じられてしまう。

 陽が落ちて皆が撤収した後も、朕は魚が動いていることを期待し、一人粘り続けていたが反応を得られることはなく、この日も無間道から抜けることが出来ないまま納竿となってしまった。
 
スポンサーサイト

テーマ : お仕事奮闘記
ジャンル : 就職・お仕事

tag : 多摩川 ルアーフィッシング バスフィッシング

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

dragon

Author:dragon
天に替って道を行おうとする人。
玉帝の導きに従い、非凡なる境地を目指している。

最新記事
月別アーカイブ
リンク
検索フォーム
QRコード
QRコード