遥かなるラマンチャ

 3月24日。

 天候の下り坂に入る。
 温暖へ進む途上にあっての下降。状況が芳しくないことは明白。
 しかし「おれはよお、フィールド行ってルアーをキャストしてるだけで満足なんだよ」とか「もしかしたら釣れるかも知れねえじゃねえかよお」といったレジェンドたちの言葉に、無駄に意欲が掻き立てられ、今日も多摩川に向かうことにした。

 登戸到着。
 見れば、鵜が水中をおおいにさわがしている。
 不埒千万な輩め。ここはひとつ、我が正確無比の投擲で奴らの心胆をして寒からしめてくれようて、とばかりにひょうと鉄板を放てば、あろうことかそれは本当に鵜に命中してしまった。
 厄介なファイトを予測し構えたものの、マルタほどのパワーも感じず寄せてくることができた。
 問題はここから先である。
 すると事の次第を見ていた、度々ここで顔を合わせるバイカーのアングラーが、手伝いましょうと申し出た。
 「※1マ僧の助けなど要らん」と、琉球空手の大先生ばりに返答したいところではあったが、朕は鵜の扱いには慣れておらず、また、すべての生き物は皆人間にとって親しい仲間であると説くケインさんの哲学に従い、バイカーの手を借りることにした。
 バイカーは自分も鵜を掛けた経験があるとのことで手馴れた様子。素早く嘴を押さえ、鵜の動きを制して見せた。
 朕は「天晴れ、大丈夫」と感嘆することしきり。
 パープレスフックも幸いし、鵜は無事川へ戻っていった。

 再びキャストを始める頃、セニョールが現れる。
 特にブラックの気配を感じることもなかったので、インテリでもあるセニョールに、故郷の偉人、ミゲル・セルバンテスのことを尋ねる。
 今や日本の学生たちの間では『ドン・キホーテ』が機知に富んだラマンチャの郷士という認識ではないということを悲しんでおられた。
 朕は、モーロ人、シデ・ハメーテ・ベネンヘーリの文才を褒め称え、アマデス・デ・ガウラこそが騎士の鑑であることと、麗しのドゥルシネーア・デル・トボーソは所詮田舎娘に過ぎぬということを知ったといった。
 セニョールは※2カみちょうに記憶力逞しい朕に感心したのか、呆れたのか、サンチョ・パンサという男についてと、セルバンテスが生きた時代についてと、モロッコという国名の由来を教えてくれた。
 朕は遍歴の騎士道精神を失って久しいが、まだ語るに十分な記憶を持っていたようだ。
 そんな、ヒネブラを射止め、遍歴の騎士としての本懐を遂げたかに思われたかつてのランサローテも、悪しき魔法使いどもに敗れ、今やただの亡者である。

 その後、それぞれにキャストを続けるが、やはり寒さに耐え切れず、日没を迎える前に撤退となった。

 ※1 『片腕ドラゴン』より
 ※2 マー語
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Author:dragon
天に替って道を行おうとする人。
玉帝の導きに従い、非凡なる境地を目指している。

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